第5回上智大学CALLセミナー
『第5回上智大学CALLセミナー』が2011年7月22日(金)、上智大学CALL-D教室において、全国の高校・大学の先生方28名参加のもとに行われた。冒頭、CALLシステム担当主任による「上智大学におけるCALLの活用状況と外国語教育」についての説明がなされたあと、英語教育に関する講演と2つの体験授業が実施された。
講演「岐路に立つ日本の英語教育」
一般外国語教育センター長/外国語学部英語学科 教授 吉田 研作 先生
現在、吉田先生はSELHigh (Super English Language High School) 企画評価委員会副委員長、「『英語が使える日本人』を育成するための戦略構想」第1研究グループ・リーダー、中央教育審議会外国語専門部会委員などの文部科学省管轄の委員をはじめ、民間団体による国際文化フォーラム理事、小学校英語指導者認定協議会理事などをつとめ、その他、海外学会でも、TIRF(The International Research Foundation for English Language Education)理事、Asia TEFL(Teaching English as a Foreign Language)学会理事なども歴任されている。その吉田先生より、現在の日本の英語教育の実状、課題と対策についての講演が行われた。
平成23年度から、小学校5・6年で外国語活動が必修となり、また、高校の英語の授業は英語で行うことを基本とする方針が示されており、現在日本の英語教育は更にコミュニケーション力向上を目指す大きな岐路に立たされていると言える。発話力やライティング力が特に劣る日本人の英語力の現状を様々な角度から分析し、「相手の意図や考えを的確に理解し、自らの考えに理由や根拠を付け加えて、論理的に説明したり、議論の中で反論したり相手を説得したりできる能力」、そうした国際共通語としての英語力を養成する必要性を説く吉田先生のお話に、参加者は真剣に耳を傾けていた。
具体的対策としては、講義形式の授業からスピーチ、ディベート、ディスカッションなど生徒の言語活動を中心とした授業へ改善することや、教育委員会や学校が企業の協力を得て、生徒が将来英語を使って活躍する場面を具体的にイメージできる機会を設ける等が挙げられ、「英語を学習する」のではなく、「英語を使って何ができるか」が重要だとされた。
吉田先生のお話の後には、「上智大学に先頭を切って英語教育を引っ張っていってほしい」という意見や、「自分の授業でも生徒が英語を使い英語に触れる機会を増やし、実践的な英語力を養成できるよう努力したい」という感想が聞かれ、教師としての使命を改めて感じているようだった。
体験授業「”Digital Natives and Digital Immigrants” in the Intermediate Eng Class Using CALL to build Confidence in English」
一般外国語教育センター 常勤嘱託講師 DONNERY Eucharia 先生
参加者にCALLシステムを活用した授業を体験していただき、具体的にCALLシステムの特徴や活用方法を知っていただくセッション。Donnery先生の体験授業は、ランダムペア、ペア会話の録音、ムービーテレコの一斉録音などを使い、会話活動が中心の授業。システムの操作は全て先生側から行い、参加者は会話などのタスクに集中して授業自体を楽しんでもらう。また、CALLシステムによってこれらの活動がスムーズにできることを体験していただく。
セミナー最初の体験授業なので、先ずランダムにペアを組み、参加者に自己紹介とフリートークをしてもらう。ここでは、be動詞を使わずに会話するという指示が出され、会話を録音する。続いて録音された自分たちの会話を聞き、be動詞を使わずに話せていたかを確認する。
全国各地の高校・大学よりお越しいただいているため、お見知り合いの先生方は少なく、最初は緊張した雰囲気だったが、ヘッドフォン越しに相手の声が聞こえ、会話が始まると会場はすぐに盛り上がり、あちらこちらで笑い声も起こった。先生はその様子をモニタし、適宜インカム機能で介入しアドバイスするため、ほど良い緊張感もあった。
次にムービーテレコのTeaching モードで日本人が苦手な”TH”の発音練習ビデオを見てもらい、同時に発音、それを録音する。ビデオは予め必要な部分だけをカットし、すぐに使えるよう、ムービーテレコの教材サーバに保存していた。
また、最後に一人ずつ違うインターネット上の動画を視聴し、ペアをみつけて自分の見た動画について説明する。話を要約して相手に伝えるためには、接続詞を用いて順序立てて話すことが求められることから、結果的にライティング対策にも役立つという。通常の授業では、実際にレポートを提出するようになっている。
CALLシステムを使うことで、教員側としては、簡単にインターネットや動画を活用し豊富な情報を学生に提供し、視野を広げることができる。学生側としては、授業をきっかけとして世界の様々な情報に触れることは勿論、自分の発音や会話を録音し、客観的に自分の英語を知ることで、改善点を見つけ、自信をもつけることができる。参加された先生方は、「とても楽しかった、また受講したい」という感想が殆どで、この日DONNERY先生が使用された動画やインターネットサイトを自分でも使ってみたいという声をいただいた。すぐにでも授業で活用していただけるようであった。
体験授業「英語のリズム」― ブルース、ラップ、シェイクスピア ―
文学部英文学科 准教授 西 能史 先生
CALLシステムとAV機器を活用した、一斉授業と個別学習を組み合わせた体験授業。テーマは、世界共通して”難しくとっつきにくい”という印象があるシェイクスピアの作品をどのように学生に興味を持たせるかというもの。パワーポイントの資料を中間モニタに提示し、適宜動画を再生、音はルームスピーカーから出すことで、一斉授業の形式でシェイクスピア作品のリズムについて解説する。続いて個別学習に切り替え、各自でディクテーション、リズムをつけて発音練習、ランダムに組まれたペアとリズムに注意しながらロールプレーをするなど、参加者の活動を織り交ぜて授業を進めていく。
授業がスムーズに進められるよう、事前に映画をムービーテレコでカットし、教材サーバに保存。授業では必要なシーンだけを次々に再生することができていた。無駄な時間がないので、参加者はテンポ良く提示される資料、教材に集中することができ、次第に授業に引き込まれていく。
解説の後には、ムービーテレコのSelf-Learning モードで与えられた時間内に各自で再生・録音などをする。参加者にとって初めて触れるアプリケーションではあったが、戸惑うことなく操作し、学生に戻った気分で練習しているようだった。先生はモニタし、参加者が十分に練習できた時点で次のステップに移る。
最後に参加者はシェイクスピアの『真夏の夜』と『ハムレット』のワンシーンをラップで聴き、リズミカルで楽しいシェイクスピアを発見する。難儀で毛嫌いされがちだが、偉大な作家であるシェイクスピアに少しでも興味を持ってもらい、素晴らしい作品へ導く授業の導入部分が一番大切だと西先生は熱弁された。
英文学を専攻しておらず、楽しめるか不安だったという先生も、「映画のワンシーンや音楽をたくさん聞けて大変楽しかった」、「シェイクスピアがこんなに楽しいものとは知らなかった」と、西先生の思いがしっかり伝わった模擬授業となった。
参加された先生方は、吉田先生の講演で日本の英語教育の現状と課題を見つめ直し、DONNERY先生と西先生による会話の授業と英文学の授業体験を通して、「ぜひ今後の授業に活かしたい」と士気を高められ、セミナーは盛況のうちに終了した。