「第四回 英語教育セミナー『新しい英語教育と授業指導』」開催報告
2011年7月開催の第三回につづき、「第四回 英語教育セミナー『新しい英語教育と授業指導』(主催:チエル 株式会社、協賛:公益財団法人 日本英語検定協会)」が、2012年2月25日(土)、鹿児島県の宝山ホール(鹿児島県文化センター)第6会議室にて開催された。
今回のセミナーでは、NHK教育テレビ『わくわく授業』などにも出演され、富山県砺波教育事務所指導主事、砺波市立出町中学校教頭を経て、現在、関西外国語大学教授である中嶋洋一先生を講師にお招きし180分のワークショップを2回に分けて行っていただいた。「授業のマンネリを打開したい」「もっと指導力を高めたい」と集まってこられた熱心な先生方にとって「日頃、何気なく繰り返していた指導が実は間違っていた」というショッキングな、そして目からうろこが落ちるような視点を数多く教えていただくことができた。
講演「自律的学習者を育てる授業とは」-これを知れば授業が変わる!-
<第一部:全体構想・授業づくり 編>
関西外国語大学 国際言語学部 教授 中嶋 洋一先生
「中嶋先生のお話を聞きたい」「今の授業力・指導力を向上させたい」という熱い思いを秘めた先生方が、九州各地、遠くは千葉県からも集まり、参加者は74名になった。
先生たちからの期待のまなざしを前に、中嶋先生はプロジェクターに一枚の教室の写真を提示し、「中学校、高校のどちらのものか」「何月何日に撮られた写真か」という質問を参加者に突然投げかけた。会場の先生方はそれぞれの考えを隣の方々と囁き合う。中嶋先生は少し間をおいてから答えを言って会場をどよめかせると、「たった一枚の写真からでも、このように学習者がワクワクするような質問をつくり出すのが教師の仕事」「生徒を授業の最初にハッとさせること、えっ?と思わせることが必要」と切り出され、本日の講演が始まった。
講演の内容は、「自ら意欲的に学ぼうとする生徒」を育てる授業のつくり方がテーマであった。中嶋先生は、最初に「地球市民の方程式(A=MVP)」を紹介し、人がActionを起こすためにはPassion(情熱)、Vision(見通し)、Mission(使命感)が必要になること、いきなり目標を決めることではなく、まずは「何のために」という目的を明確にしたうえで、具体的な目標を設定していくことの大切さを説かれた。
たとえばPassionでは、子どもたちに情熱や、こうなりたいという強い願いを抱かせるには、生徒間で良いモデルを見せることが大切。生徒自身に考えさせ、葛藤させて、そこから生まれた良いものをどんどん紹介することで、「こうなりたい」という目標が設定できる。このように「あこがれ」を作るためにメンタリング(モデルから学ぶ場面を用意)を有効に活用する必要がある。教育には、教師のpassionも不可欠である。特に「こうなりたい」というこだわりをもっている教師には吸引力がある。要は、あれもこれもと手を出さずに、一点突破で自分の軸足(リスニング指導、ライティング指導など、自分が最も関心を持っていること)をより深く掘り下げ、スペシャリストになることが必要であり、それによって身に付いた専門的な視点が他の3つの領域の指導にも生かされるようになってくるのだと言われた。
2つ目のVisionについては、教師集団が、生徒が卒業するときには、何がどこまでできるようになっていればよいか、その具体的な到達ステージのイメージを年度当初に共有しておくことが大事であると述べられた。
たとえば、授業の初めに、その授業のゴール(「~できる」という到達目標)をはっきり明示しておくことで、生徒はそれを意識して学習に取り組む。それにより、授業の最後には多くの生徒を「評価規準」に近づけることができる。定期テストも、学期の最初にテスト形式(設問の種類と採点のポイント)を説明しておくことで、早い段階から意欲的に取り組むようになる。それには、教師がテスト直前にテストをつくるのではなく、年度当初に3学期の最後のテスト形式、それにつながる2学期期末考査の形式(1学期をステップアップしたもの)、そして1学期の期末考査の形式(基本)を考えるという「Backward design」で考える必要がある。
テストとは学んだことが本当に身についているかどうかを確認するためのもの、つまり、Goal/目標であり、それを達成するために日々の授業が設計されていかなければならない。教科書を教えることに熱中してしまい、いつの間にか教科書を終わらせることが目的になってしまっては、生徒も「なぜ学ぶのか」「何のために何を学ぶのか」が分からず、受動的で指示待ちになってしまう。だから、到達のゴールを最初に示しておくことで、見通しを立てて取り組むようになるというのである。
最後は、Missionである。「自分に任される」と「自己責任」を感じる。教師がすべての活動を仕切るのではなく、「自己選択・自己決定・自己責任」のプロセスを生かすことが「自律的学習者」を育てる鍵になるのだという。また、ペアワークやロールプレイは、相手のためにやらなければいけないという使命感を与えるのにはよい授業形態と言える。しかしながら、多くの先生がペアワークの使い方を勘違いしている、と中嶋先生は指摘する。「1回しかペアワークをしないようでは力がつかない」というのだ。「1回目のペアワークでは、やり方がわかるだけで、真に力がつくのは2回目以降からである。2回目からは、もっとここをこうしたい、こうなりたいと考え、こだわりやオリジナリティが生まれてきやすい。よって同じ内容で違う相手と最低2回ペア活動を行うことが大事」という話に、先生方は自分にも覚えがあるという納得の表情で話を傾聴しておられた。
続いて中嶋先生は、英語がわかるという実感をもたせるには音読が有効であると述べ、具体的な音読練習のあり方について、実際に活動を織り交ぜながら説明をされた。
音の欠落やリエゾンを意識して発音できるようになれば、その音を聞くこともできるようになるという説はよく知られている。中嶋先生はそれに付け加えて、「文章の意味を理解しないまま音読を続けることは誤りである。訳すことで終わってはいけない。むしろ、意味を理解し、映像のようにイメージが頭に浮かんでくるようになるまで、繰り返し音読を練習することが大切」と強調された。実際に、合計20枚ほどのパワーポイントのスライド(文字が消えていく、逆さから読む、チャイムと競争するなど)を使って、音読練習がテンポよく行われていき、最初できなかったこと(150/wpmで文字が消えていくスピードについていけなかった)が最後にはできるようになっていたことに、先生方の中から「できた!」「おおっ」「すごい」と一斉に歓声が上がった。
第一部の最後、中嶋先生は授業デザインに話を戻し、フィンランドと日本の教育を比較された。フィンランドでは、アヤトゥス・カルッタ(カードやマッピングなどの作業を通して思考を深める方法)で、すべての基本となる「型」を徹底して教えていること、一方日本では「型」を教えずに「枠」にはめようとしている。だから、生徒たちは「考える楽しさ」を味わうことなく、テストのためにマニュアルや正答を求め、知識を「暗記」する。「拠り所」のない学習は、やがて閉塞感を生み、習熟に時間がかかる生徒たちが一人、二人と「脱落」していく。
「型」を身につけるには、確かな言語技術や思考トレーニングを課すことが必要であると同時に、最初に戻す指導が不可欠であると述べられた。中嶋先生は、テストの例を挙げ、教師が説明をしたまま終わっているから定着しないのだと問題提起をされた。つまり、間違った問題をもう一度解かせるということだ。本当に理解したかどうかは、出力させてみないとわからないからである。また、「訂正ノート」を作らせ、間違った問題について、なぜその答えになるのか生徒に説明させることで本当に理解できるようになるという。どうしたら正答が導けたのかというプロセスを理解させることで、はじめて定着するのである。
授業は、教科書の内容を教えて終わりではなく、授業の終わりには一人ひとりの生徒が本当にできるようになっていなければならない。そのためには、学期末のテストという目標に向かって授業が構築されていかなければならない。目標が達成されているかどうかを確かめるため、テスト問題に評価の観点(コミュニケーションへの関心・意欲・態度、表現の能力、理解の能力、言語・文化の知識理解)を示しておくことが大事だと述べられた。そうすることで、生徒の自己評価能力が高まり、具体的に自分の現状把握と改善点が見えるようになる。
授業でも、授業のはじめに設定した目標、つまりその授業で学んだことについて生徒同士で解説し合うことによって確実に理解できるという。ここで更に有力となるのは、グループやペアで問題をつくり合い、競わせることだ。自分で問題が作れるということは、その内容を理解しているということであり、答えについても説明ができるということである。と同時に、出題者の意図もわかるようになり、うっかりミスをなくすことにもつながるという。また教師は、生徒が作った問題の中からよいものを取り上げてクラスで紹介することで、互いの「学び」を促進する「協同学習」になりうると説明された。
講演「自律的学習者を育てる授業とは」-これを知れば授業が変わる!-
<第二部:テスト・評価 編>
関西外国語大学 国際言語学部 教授 中嶋 洋一先生
第二部は、テスト作成時の注意点と評価のしかたについて講演いただいた。
まず、コミュニケーション力の評価は、たくさん書いている、たくさん話している、たくさんの質問をしてくる、等で評価できることなので、この活動を仕組んでいない限り評価はできない。まじめに話を聞いている、よく手を挙げる、ワークをやっているというのは「学習意欲」であって、「コミュニケーションへの関心・意欲・態度」のことではない。現場では、未だにここを勘違いしている方がいる、と厳しく指摘された。
また、表現の能力を問う設問は、個々のオリジナリティが生まれるような内容にするべきであり、できあがった英文が同じになる和文英訳や答え方が決まった英問英答は、「言語・文化の知識」を確かめる問題として区別されなければならないこと。理解の能力は、初出の英文の概要を理解(聴く、読む)できることなので、教科書本文をそのまま出題するのは「暗記」であり、「理解」ではないこと。もし、教科書から出すとしたら、文の構造を理解しているかどうかを確かめるために出題すべきであり、それは「言語・文化の知識理解」の範疇となる。また、日ごろから音読を徹底しているのであれば、それを確かめる問題を出さない限り、生徒は「テストは結局暗記」と高をくくってしまうことになる。テストに教科書本文のあちこちに手を加えておき、間違いを見つけさせるような問題を出題すれば、日ごろの活動とテストがつながり、一生懸命に練習していた生徒はさらに力を入れるようになるだろうし、できなかった生徒は音読を頑張るようになるだろう。そのように、テストによってゴールを示すことが、学習の波及効果を生むのだという説明に、話を聞いておられた先生方は、ときどきドキリとされたり、「そうか!」と納得されたりしていた。
中嶋先生は、授業ではそのような問題に対処できるように日常的なトレーニングをすること、生徒が混乱しないようにわかりやすい設問を作ることが大切であると述べ、英作文を例に具体的に説明された。場面を説明せずに、いきなり「問いに答えなさい」では読解力が高まらないこと、「条件を示さない英作文」は生徒を混乱させるだけであることを述べ、ではどう変えればよいかという視点を明確に提示された。また、何かまとまった内容を書かせるときに「条件」を示すだけでは、点数をもらうために無味乾燥な、当たり障りのない書き方をしてしまう。要は「誰に向かって書くのか」という特定の相手を設定することが鍵になると強調された。
テストを「暗記型」から「思考型・習熟確認型」に変えると問題の種類が増え、客観性が高まる。3学期の問題から逆に作成するからこそ、今やっておくべきことがはっきりと見えてくる。指導案も最後の5分から作成していく。一枚が10分のカードを5枚用意し、生徒の思考する時間、行動する時間も合わせて10分で完了するようにする(それ以上は集中できない、あれもこれもと欲張らないこと)、など、中嶋先生の具体的なアドバイスに、先生方は大きく頷いていた。
また中嶋先生は、教科書はあくまで素材であり、教師の発問や指示によって素材が教材になるのだと力説された。通常、検定に通るためには、教科書に記載される単語総数はある程度制限されるので、情報の不足や文脈としてやや不自然なところも出てくるという。そこで、教師は場面を取り出して、生徒に「行間」を読みとる習慣をつける必要がある。自由にアドリブなどを入れさせて、元の自然な会話文に戻していくようにする。
更に、教科書を正しく読むことに重点が置かれがちになっていることが問題だとも指摘された。どのページの対話文も、教師がほとんど同じ調子で範読をする限り、生徒は場面を意識することはない。特に、対話文では、背景を意識し、登場人物の感情等を想像した上で役になりきって読むことが、実用的な音読練習になる。
例えば同じ「John!」と呼びかけるにしても、場面が異なれば実に様々な言い方になる。中嶋先生の指示に従って、先生方は感情を込め、様々なパターンで「John!」と呼びかけられた。正に「言葉は場面の中でしか意味をもたない」ということを実感されていた。
さらに、中嶋先生は「協同学習」の有効性を述べ、場面を読み取るような問題を生徒たち自身に考えさせる活動を紹介された。教師の姿勢としては、よい問題があればそれを取り上げて褒める、他のクラスでもそれを紹介し、競わせていくことで、生徒は自ら考え、行動していくようになるという。「教師の仕事は教え上手ではなく、のせ上手、させ上手、盛り上げ上手」であり、一度に多くのことを与えすぎてはいけないと説かれた。指導が丁寧すぎると、生徒は待ちの姿勢になり、自分で考えなくなる。いかに知的にハングリーな状態にするか、負荷を与えてそれを乗り越えさせるかが大事だということであった。
中嶋先生の講演自体が「与えすぎない授業」をそのまま実践されたもので、多くのグループワークが仕組まれており、臨場感あふれた、メリハリのあるものだった。参加された先生方からは「よく頭を使った」「楽しかった」「授業もこうすればいいのか」というような感想があがっていた。
講演も終わりに近づいたころ、中嶋先生はゼミ生がムービーメーカーを使って制作した動画を流された。約10分間の短編の中に、生きることの尊さ、命の大切さを改めて痛感させられたビデオクリップだったが、中嶋先生は「このビデオを見せる前に何かを言うのか」「見せた後に何かを言うのか」を考えることが教材研究。素材だけ用意して終わりにするのではなく、流れをいろんなパターンで想起してみると、いろんなアイデアが湧いてくるようになり、授業に多様性が生まれてくると言われ、先生方は自分ならばどう使うだろうかと思いをめぐらされていた。
最後に、静かなBGMと共に「私はどんな授業を目指していたのでしょう?」と中嶋先生は問いかけられた。忙しさの中で忘れがちになっていた「教師とは」「教育とは」「夢とは」を会場の先生方は心に思い浮かべられている様子だった。”Learn from Yesterday. Live for today. Hope for tomorrow.”(過去から学び、今に生き、未来に希望を馳せよ)- Albert Einstein や“Live as if you were to die tomorrow, Learn as if you were to live forever.”(明日死んでもいいように生きよ。ずっと生きていけるかのように学び続けよ) – Mahatma Gandhiなど、世界の著名な作家・科学者たちの教育に対する思いや哲学を紹介し、講演を締めくくられた。
講演終了後は情報交換会の場を設け、和やかな雰囲気のなか、参加された先生方は談笑しながら交流を深めていただけたようだった。会の最後に、本セミナーの協賛をいただいている公益財団法人 日本英語検定協会 橋爪 健理事に締めのご挨拶をいただき、セミナーは大盛況のうちに終了した。
遠くは千葉県から、中嶋先生のお話を聞き、授業を改善したいという思いを秘めた先生方が鹿児島にお集まりになり、「生徒ではなくまず自分が変わりたい」「やる気をもらった」「たいへん勉強になった」などと、教師としての責任感・醍醐味をあらためて実感してお帰りいただけ、第四回 英語教育セミナーは、中嶋先生の熱い思いが、参加された先生方に十分に伝わった内容の濃いセミナーとなった。
今回のセミナーでも、チエルの英検対策eラーニング教材『旺文社・英検CAT』のご紹介をさせていただいたが、「英語力のばらつきにより英検対策を授業中一斉に行えないことが課題となっており、『英検CAT』は生徒が自分のレベルに合わせて学習できるのでいいですね」といった感想をいただけた。自律的学習を促進させるためにどのようにeラーニングに取り組ませるかというのが先生方の力量の見せどころでもある。英語教育に携わる全国の先生方が、英検などを活用してより効果的な授業指導を行う際にお役立ていただく活動の一環として、今後も「英語教育セミナー」の実施を重ねていきたい。