GIGAスクール構想に向け、教員のICT活用能力をUP!
―広島県―
尾道市教育委員会
GIGAスクール構想の実現に向け、市内の全小・中学校において、「1人1台」のChromebookの導入を進める尾道市。2021年度からの本格活用を目指し、校内ネットワークの整備や教員研修を進めている。不慣れな端末やアプリの使用への教員の不安を払拭する教員研修の在り方や今後の活用への期待について取材した。
尾道市教育委員会
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広島県尾道市久保一丁目15-1 教育会館
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Chromebookへの転換
広島県南東部の瀬戸内海に面した尾道市は、本土と複数の島からなる自治体だ。
市内の小学校ではかつてWindowsのパソコンを備えた教室を使用していたが、昨年2月、全小学校に1クラス分のChromebookを導入。さらに、市内の全小・中学校における「1人1台」の環境整備を進めてきた。
端末の選定にあたっては、尾道市情報システム課、教育委員会、校長会、教員で構成された選定委員会がプロポーザルを通じて検討を重ねた。決め手となったのは、Chromebookの「操作性」と「クラウドベース」だったという。
「初めて触る端末やアプリであっても、これなら先生方や子供たちは直感的にすぐ対応していけるのではないか。また動きが軽く、立ち上がりも速いため、授業で閉じたり開いたりがストレス無く行えるのではないかと感じられました」と才谷瑛一指導主事は当時を振り返る。
セキュリティー面の不安からクラウドの使用をためらう自治体も多いが、「クラウドには『個人の情報が端末自体に残らない』という安全面でのアドバンテージが逆にあります」と才谷氏。
2021年3月に小・中学校ともに校内LANの工事と1人1台端末の整備が完了するが、それ以前に各小・中学校におよそ2台ずつの無線アクセスポイントを導入した。そのため、校内LANの工事が完了する前から教員がChromebookに触る機会が少しずつ増えていったという。
教員研修に工夫を
慣れない端末やアプリを全教員にどのように広めていくか。その要となるのが教員研修だ。導入当初、ネットワーク環境への配慮から、集合研修への参加は各校1名ずつとしていたが、「自校に戻った先生一人の力で全教員に研修内容を広めるのは、相当な技量や時間、エネルギーが必要だった」と才谷氏は話す。各校1名の教員に膨大な量のChromebookの操作研修を実施することは現実的ではない。少なくとも2名いれば、対話が生まれ、校内での活用が進むのではないか。効果的な研修の在り方の模索が始まった。
今年1月から尾道市が行っているのが、Google Workspace(旧称G Suite)を活用したオンラインによる教員研修だ。「コロナ禍で集合研修が中止になり、その中で何ができるだろうか。せっかくだから今ある資源を活用しようと考えました」と本安公範課長は話す。
Google Classroomを使った研修の実施にあたっては、情報担当以外の指導主事も事前に勉強をして臨んだ。これにより、教育委員会や教員の間でChromebookやGoogle Workspaceの活用に対する認知度が格段に上がったという。
中止を予定していた市の初任者研修はGoogle Classroomを作成して実施したことで、コロナ禍で対面することができなかった初任者がオンライン上で初めて交流できた。ある初任者は、「今回のG Suite内の初任者研修を通して、尾道市にこんなにもたくさん仲間がいることを実感できました」とGoogleフォームに感想を寄せた。
また、例年は教頭と研究主任(尾道市では「学びの変革」推進担当教員と呼ぶ)を対象にそれぞれ別個に行っていた研修を、今期は同じ内容で同時に行った。教頭と研究主任が学校で話し合い、共同編集を経験しながらGoogleスプレッドシートやGoogle Jamboardで課題提出できるように工夫したのだ。
「自校の良さを伝える」という課題では、職員室でその様子を見た周りの教員が自然と集まり、全教員で自校の良さを出し合ってまとめた学校もあったという。そこには教頭の感想として次のような前向きな言葉が添えられていた。「研究主任と共同で研修を行い、使い慣れない機能について随分助けてもらいました。自校の良さを伝えるJamboardづくりでは、他の教員もたくさんの意見を出してくれ、本校の教職員の良さも改めて感じました。ICTを活用した学習を推進していく必要性、可能性を痛感しました。本校の取り組みに生かしていきたいです」
校内で広がる活用
「1人1台」環境を目前に、尾道市におけるChromebookの活用場面は既に多岐にわたる。学びの振り返り、情報収集、プログラミング教育、キャリア教育における遠隔地との接続、ALTが島の小・中学校で行う遠隔外国語授業、分散全校朝会といった子供たちが関わる場面の他、分散校内研修や、教員が指導案を検討する際に、Google Jamboardの背景を指導案にしたり写真を貼ったりして共同編集により意見を出し合うという新たな活用法も生まれている。
学校現場からの要望と解決策
試行錯誤で活用を進めてきた2020年度、実際にChromebookを使った授業を行った小学校の教員からは、「画面共有」や「画面ロック」といった機能を求める声が多く上がったという。
そこで尾道市が今年に入ってから「GIGAスクール構想」のタイミングで導入したのが『InterCLASS® for Chrome』だ。「『待ってました!」という感じでしたね。これからの授業で子供たちが知識と知識や、知識と体験、そして友達と自分をつないでいけるよう、先生方がどんどん創意工夫して使ってくれることをとても楽しみにしています」(才谷氏)
1人1台で、子供たちに力を
市では今後、教科を越えたさまざまな場面での活用を期待している。例えば、島々を結ぶサイクリングコースや寺社仏閣など多くの観光資源を有する尾道市に子供たちが誇りを持つことをテーマに、総合的な学習の中で行われている『ふるさと学習』もその一つだ。
「子供たちが1人1台携えて町で取材やインタビューを行ったり、それをまとめて発表したりと、Chromebookをぜひ活用してほしいです。また近年盛り上がりを見せている尾道市と台湾との交流など、この土地ならではの教育に最大限活用したいと考えています。そのことで子供たちが自然と自分の考えを持ったり、まとめたり、提案したりしながら、PCを使った勉強のやり方を習得し、さらに大きな力をつけることを目指しています」(本安氏)
尾道市の魅力を子供たちが自らの力でまとめ、世界に発信する未来も、そう遠くないようだ。
*Google Workspace(旧称 G Suite)、Chromebook、Google Classroom、Google Jamboard、Googleスプレッドシート、Googleフォーム は、Google LLC の商標です