Case Studies

ICTで個に応じた学習を

特別支援学級におけるデジタル教材の活用

―東京都―
荒川区立汐入小学校

児童生徒一人ひとりに個別最適化された学びを実現するために、個別学習用デジタル教材の活用が有効だ。多様な子供たちが共に学ぶ教室で、具体的にどのようなメリットがあるのだろうか。

ICTで個に応じた学習を
荒川区立汐入小学校

荒川区立汐入小学校
〒116-0003 東京都荒川区南千住8丁目2番3号

2002年開校。「かがやく子」「みる きく はなす こたえをさがす」を教育目標とし、学校図書館やICTの積極的な活用、学校全体の体力向上などに取り組む。児童数およそ770名。

特別支援学級での活用

 荒川区では、学習者用PCを小学校1・2年生では4クラスに1セット、3年生以上では2クラスに1セット、中学校では1人1台、さらに小学校の全ての特別支援学級に対して1人1台、整備している。

 特別な支援を必要とする子供たちにとって、タブレットPCは様々な学習場面で効果を発揮するツールとなる。1人1台の環境が整っていれば、個別学習が有効な活用方法であることは言うまでもないだろう。

 区立汐入小学校では、21人の子供たちが特別支援学級「しおいり学級」で学んでいる。クラスは3つに分かれており、学年混合のクラス編成となっている。多様な子供たちが共に学ぶ環境において、一人ひとりが自分に合った学習を進めるために大切なポイントは何か。その指導方法や運用上の工夫について先生にお話を伺うとともに、タブレットPCで個別学習に取り組む子供たちの様子を取材した。

先生が黒板に「チエル」のカードを貼るだけで自学自習の習慣が
先生が黒板に「チエル」のカードを貼るだけで自学自習の習慣が

一人でできるようになるまでの指導

 山口貴士先生は約半年前から『基礎・基本 国語検定』『基礎・基本 計算検定』を活用している。使い始めたばかりの頃は、指導に苦労する面もあったという。クラウド型のデジタル教材は、学校だけでなく家庭からもアクセスができ、場所を選ばずに連続した学習ができるなどのメリットがある分、クラウドへのアクセスのためにIDやパスワードを入力してログインする必要がある。情報モラル・セキュリティの観点から大切な指導の1つではあるが、キーボードでの文字入力に慣れない子供たちにとっては、スムーズにできるようになるまでにある程度の時間を要する部分だ。初回は、ログイン画面を大型掲示装置に映し出し、先生の説明に合わせて全員で一斉に入力しながら方法を覚えていった。ログインが一人でできるようになると、その次は、ログインに失敗したり画面が動かなくなってしまったりしたときの対処を指導した。

 「最初の指導には少し時間がかかりました。でもいったんできるようになってしまえば、あとは本当に楽ですよ。私は黒板に『チエル』ってカードを貼るだけですから」と笑う山口先生。「特別支援学級では、その日の時間割の右側に『この時間の中でやること』の項目を、カードを並べて掲示します。例えば『みんなで勉強する』、そのあとに『プリント1枚』など。学級では『基礎・基本 国語検定』『基礎・基本 計算検定』のことを『チエルネット』と呼んでいるのですが、『チエル』というカードが貼ってあったら、その前の項目が終わった子は、こちらから何も言わなくても自分でログインして学習を始める習慣が今では身に付いています。課題の終わるタイミングは一人ひとり違うので、終わった子から各自で自学自習を進められるというのは本当に助かりますね」

 繰り返し解くことのできるデジタル教材であれば、「終わったら何をすればいい?」というような、指示を待つ状況になることもない。授業中に生まれるほんの少しのすきま時間を有効に活用できるのだ。

すきま時間を活かして個に応じた学習を

 特別支援学級では普段の授業でもタブレットPCを使う機会が多いため、朝学習などの時間はタブレットPCを使わず読書などにあてることがほとんどで、タブレットPCでの個別学習は主に授業時間中に行っている。

 『基礎・基本 国語検定』『基礎・基本 計算検定』では、自由に学年を選んで学習することができる。計算では「2問」、国語では1~2分間ほどで終わる学習を1回の単位とし、「合格」するごとに「級」が上がっていく形式のドリル教材だ。授業中に課題が早く終わってしまった場合など、すきま時間を利用した学習にぴったりといえる。

 山口先生のクラスでは、最初は全員が共通で1年生の問題から始めるように指導した。簡単な問題によって、まずは操作に慣れるため、また、自分のペースで学習を進める姿勢を身に付けるためだ。

 1年生の問題から順に解いていき、2年生まで進んだ辺りで、子供たちの合格状況に明らかな個人差が表れ始めた。指導者用画面の合格状況の一覧(図1参照)によって、一人ひとり異なる学習状況の実態が可視化されたという。

 学習に慣れてくると、自分の学年の問題に進んでみたり、再び簡単な問題に戻ったりする子供も出てきた。プリントや通常の問題集ではなかなかこうはいかない。学年ボタンで手軽に学年を行き来できるデジタル教材ならではといえるだろう。

 『基礎・基本 国語検定』には「漢字の読み」「漢字の筆順」「ことばの意味」と3つのカテゴリーがあり、様々なパターンの問題に取り組めることも特長だ。「『ことばの意味』に取り組み始めたのは最近ですが、漢字でも計算でもない学習が新鮮なようです。接続語などの問題も含まれているので、これからもっと学習が進んでいけば、作文を書くときなどにも活きてくるのではないかと思っています」

「計算」「漢字の読み」「漢字の筆順」「ことばの意味」から自分で選んで学習「計算」「漢字の読み」「漢字の筆順」「ことばの意味」から自分で選んで学習「計算」「漢字の読み」「漢字の筆順」「ことばの意味」から自分で選んで学習「計算」「漢字の読み」「漢字の筆順」「ことばの意味」から自分で選んで学習
「計算」「漢字の読み」「漢字の筆順」「ことばの意味」から自分で選んで学習
図1 指導者用画面で児童の学習状況が可視化される(データはサンプルです)
図1 指導者用画面で児童の学習状況が可視化される(データはサンプルです)

指導者用画面の活用

リアルタイムに反映される学習状況をチェックしながら児童に声をかける
リアルタイムに反映される学習状況をチェックしながら児童に声をかける

 学習中、山口先生はリアルタイムに反映される指導者用画面で児童一人ひとりの学習状況を確認しながら「〇〇さんは次は〇年の〇級に挑戦してみたら?」などと子供一人ひとりに声をかける。また、子供からも「先生!〇年生の〇級クリアしたよ!」などと報告の声が上がっていた。

 また、学習者が各級に合格して一定の条件を満たすと、指導者用画面上に「認定証発行」ボタンが表示される。学校名や児童の名前、発行した先生の名前を入力するだけで本格的な賞状がプリントアウトでき、子供たちの達成感や学習意欲を引き出す一助となる。「合格しながら進んで行くというのは、モチベーションの維持にとても効果的ですね。『認定証』も活用しています。名前を入力するだけで簡単に発行できるので、その場ですぐに印刷してみんなの前で表彰しているんです」

認定証はすぐに印刷してみんなの前で表彰(認定証はサンプルです) 認定証はすぐに印刷してみんなの前で表彰(認定証はサンプルです)
認定証はすぐに印刷してみんなの前で表彰(認定証はサンプルです)

ICTのおかげで手厚い支援が可能に

一対一の支援を充実させることが可能に
一対一の支援を充実させることが可能に

 個別学習にICTを使うメリットについて、山口先生に改めて伺った。「プリントで問題を解くと、子供たちが一斉に提出に来たり、採点を待つために行列ができたりと、それだけで教師の手がいっぱいになってしまうことがあります。ICTを使えば、採点は自動で行われるし、次の問題も自動で出てくる。それによって、個別に支援したい子についてあげることができます」

 この日は、5年生の児童が2けた×1けたの問題への挑戦を希望する場面があった。その子にとって未習の内容だったが、山口先生が一対一でつくことで挑戦させてあげることができた。「特別支援級では特に一人ひとりに対応しなければならない場面が多いですし、その日のコンディションによっても今日はこの子供についていてあげたいなという日があるんです。そういうとき、他の子供に対して『これをやっていて』という指示だけで自学自習が成立するのは、ICTのおかげですよね」

 すきま時間の有効活用も、一人ひとりの学習状況に合った学習も、個別の支援を必要とする場面での手厚い支援も同時に叶えることのできるICT。1人1台のタブレットで行う個別学習の効果は、日々の積み重ねによってさらに大きなものとなっていきそうだ。

「まだ習っていないけど挑戦したい」と言う児童を支援
「まだ習っていないけど挑戦したい」と言う児童を支援
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