海外における「フラッシュ型教材」活用事例
―アメリカ―
ベルビュー・チルドレンズ・アカデミー
ベルビュー・チルドレンズ・アカデミー
Bellevue Children’s Academy
14600 NE 24th St, Bellevue, WA 98007, USA
アメリカ合衆国のワシントン州ベルビュー市に設立された、幼稚部から中等部まで生徒数650人のアメリカ現地住民向けの私立学校。積極的にICTを取り込むことで、子供たちの将来の可能性を広げることを推進している。
早期からのコンピュータ・リテラシー教育
ベルビュー・チルドレンズ・アカデミー(以下、BCA)はマイクロソフト本社のすぐ近くに位置し、周辺にはアマゾン本社やボーイング社などもあることから、近隣の住民はITをはじめとする技術職に携わっている人が非常に多い。そのため、STEM教育、つまり、 Science (科学)、 Technology (技術)、Engineering (工学)、 Math(数学)の分野に関する教育への期待値が他の地域よりも高い。
BCAでは積極的にICTを活用しており、コンピュータ・リテラシーを目的としたクラスを幼稚部から提供している。ここでいうコンピュータ・リテラシーとは、コンピュータを自ら操作し、コミュニケーションをはじめ、必要な知識と能力を培うための教育である。
例えば、Pre-K(日本の幼稚園年中相当)では、はじめにキーボードの操作方法としてタイピング練習を行う。英語の文章を口頭で発音しながら、キーボードで入力する。これは、今後自分で情報を発信していく上で重要なスキルとなる。
小学部では、コンピュータ・リテラシーを中心としたコンピュータクラスと、プログラミングのロボティクスを教えるレゴクラスの2つの柱で、コンピュータ教育に取り組んでいる。さらに小学部では、IB(国際バカロレア)教育の一環として教科横断型のプロジェクトを行っている。例えば、プロジェクトで調べたり発表したりするためにパソコンを使うのはもちろんのこと、使った情報が本当に信頼できるものなのか、ほかのソースから得た情報をどのように取り扱っていかなければならないのか、レポートを書くときに盗用にならないためのルールなど、情報社会で重要になってきた規則や考え方を養うことに重点を置くことで、自ら情報を発信するためのさまざまなスキルを実践で身に着けていくことができる。
授業にICTを取り入れる意義
BCAでは、幼稚部から中等部までの全教室にプロジェクターとドキュメントカメラ、 タブレットPC、教師用パソコンを常設している。これらを組み合わせて活用することで、教師は教室を歩き回りながら授業を進めることができる。生徒全員の視線をプロジェクターから映し出された映像に引きつけつつ、生徒の後方から広い視野で直接指導できるため、生徒の集中力を途切れさせることなく一人ひとりのコミュニケーションの時間を創出することが可能となる。
また、ICTを活用すると、教材を動的コンテンツとして作成することができる。例えば、カードをコンピュータ上で作成して、映し出された画面で直接カードを並び替えたり、選ばせたりして、双方向にコミュニケーションが取れる教材を作成することもできる。作成した教材は、Microsoft SharePoint や OneDrive for Business を使って、教師間で共有をしている。お互いの教材を共有することで、効率的に、より改良された教材を作り上げることができるのである。
次世代で生き抜くためのスキルを身に着ける
情報社会では、氾濫する情報を自分の力で情報を見極めながら、自ら情報を発信していく力が求められてきている。本校では、プロジェクトを通じて、生きた教材を使い、自分で調べ、自分で情報を発信するという実践を大切にしている。ICTは子供たちにとっては次世代で生きていくために必要なツールであり、教育現場では最大の武器になる。また、情報を見極めて、発信して、共有する、というサイクルは、新しい価値を生み出すだけでなく、生きていくための知識と経験となる。BCAは、実践を通じた学びの場になるために、これからも新しい試みや挑戦を行ってゆく。
BCA土曜学校のICT活用
BCAが運営する土曜学校は、英語と日本語のバイリンガルを目指す子供たちを対象に、毎週土曜日開校している。普段は現地の学校に通っている子供たちが、BCAの校舎に入った瞬間から日本の学校に留学したような環境で学んでいる。日本の教科書を使い、国語と算数の2教科を日本語で学習する。 土曜学校の開校時間帯は、幼稚部と小学1年は、午前8時45分~午後1時、小学2〜6年と中高部は、午前8時45分~午後1時30分で、この時間の中での国語と算数の授業時間は、正味それぞれ90分程度となる。年間34回の土曜授業で1学年分の学習内容を指導するためには授業の効率化が必須であり、それを支えているのがICT環境とその活用である。
BCAでは、教師用PC、実物投影機、プロジェクター、電子情報ボードユニットなどが、全ての教室に常設されている。土曜学校の教師にとって、これらのICT機器を活用して授業を行うのはごく当たり前のことで、ICTは授業の中に溶け込んでおり、効率化の道具として自然に活用されている。
算数の授業を例に、ICTを活用した授業を紹介する。
授業のスタートは「フラッシュ型教材」を使い、全員で今日学習する算数に必要な用語を読みあげる。バイリンガルを目指す子供たちにとって、算数に出てくる用語を読むのは難しく、毎回フラッシュを使って読みあげることで、教科書に出てくる算数の用語を確実に読めるようになる。次に教科書をプロジェクターでホワイトボードに提示する。今日の課題を大きく映し、全員で大きな声で読みあげる。教科書の流れに沿って、拡大提示をしながら今日の課題について挙手を求める。BCAの子供たちは、積極的に自分の意見を述べることができる。それぞれの考えを共有し、ノートにまとめさせる。子供たちのノートを実物投影機で大きく映し、全体で確認する。最後に、今日学習し解けるようになった簡単な問題をフラッシュで復習し、終了となる。
土曜学校の教員は、何を見せ、何を発問し、まとめるか、という授業づくりのポイントを熟知しており、週1回の授業のためにICTを使った教材を大変丁寧に作成している。中には、1回の授業で使う提示資料をすべてパワーポイントにして準備する教員もいる。2つあるホワイトボードは、片方をパワーポイントの提示用、もう一方を板書用とするのが定番だ。ノート指導については、効率化を図るため子供たちの使用しているノートのマスを入れた自作プリントを配布し、最後にノートに貼り付けさせる教員も多い。
BCA土曜学校は、アメリカには珍しい「一斉授業」の授業形態をとっている。教師の「はい、見ましょう」の指示で子供たちがぱっと顔をあげ、提示されたものを集中して見る。日本では当たり前のこの授業風景が、授業中お菓子を食べてもよいアメリカでは意外に難しく、土曜学校をあげて、幼稚部から学習規律を徹底している。自由の国アメリカにおいても、教室移動は静かに一列で移動することからはじまり、授業は挨拶で始まり挨拶で終わる。発言は挙手をし指名されてから発言する。子供たちは「さん」「くん」をつけて呼び、しっかりと起立して発表する。人の意見には静かに耳を傾ける。
これらは、ICTとは遠く離れた教育のように思えるが、授業規律がしっかりしていればこそ、ICT活用が生きる。何処の国にあっても、先生の話をしっかり聞ける子供たちの資質のうえに授業が成り立っていることを実感している。ここ土曜学校では、授業の効率化がICTによって支えられ、授業に溶け込んだ活用がされている。
中学・高校部国語における「フラッシュ型教材」の活用
BCA土曜学校中学・高校部では、国語(基礎国語・国語Ⅰ・国語Ⅱ・国語Ⅲ・国語Ⅳ・小論文Ⅰ・小論文Ⅱ)、数学(数学Ⅰ・数学Ⅱ・数学Ⅲ・AlgebraⅠ・Geometory・AlgebraⅡ・Pre-Calculus・Ap Calculus)、英語(ESSAY Middle School・SAT English・ESSAY High School・PSAT English)を開設している。生徒たちは、日本語力を高めると同時に、現地校の科目を補習・強化するために、学齢にとらわれず必要な教科を選択し、それぞれに合った時間割を組んで学習している。
日本で実践が続けられてきた「フラッシュ型教材」は、英語を母国語とするアメリカの生徒たちにも有効であるという手応えを感じている。ここでは、中学・髙校部の国語の授業での「フラッシュ型教材」の活用について紹介したい。
授業は日本の教科書を使って行われているが、年間の授業時数は34時間と限られている。そのため、教材をバランス良く選択し、日本の授業よりさらに効率良く進めなければならない。
バイリンガルの生徒たちが学ぶ土曜学校において、充実した学びを目指すためには「話す」「聞く」「書く」「読む」の領域に加え、それを支える言語事項の習得が大切なポイントとなる。伝え合う力を育成し、思考力や想像力を養い、言語感覚を育てることを目指す国語の学習では、基礎基本の確実な定着がなければ、豊かなことばの学習は成立しないからである。
そこで、限られた時間を有効に使い、学びのベースとなる基礎的な言語事項を鍛えるために、デジタルで課題を提示する「フラッシュ型教材」を活用している。
音声、語句・語彙など言語生活に関わる事項は、単に知識として学習するだけでなく、実際の言語活動の中で活用され、生きて働く力として身に着けることが必要となる。
「フラッシュ型教材」は、新学習指導要領に示されている資質能力の3つの柱の1つ目、知識・技能の習得に有効である。デジタルで次々に提示される問題に即答するドリル的な反復学習は、プリントやドリルと比べてビジュアル性が高く、生徒の学習意欲を高めるとともに教室を明るくする効果もある。
授業を進める上で必要なものは授業の始めのうちに、知識を定着させるためのドリルや1時間のまとめとして確認すべきものは授業の最後にと、クラスの実態に応じて「フラッシュ型教材」の組み合わせや難易度、枚数を変えながら、他の教材との関連付けや段階をふんだ提示の工夫を心がけている。
生徒からの声
年度末の生徒の感想から「難しい漢字も読んでいるうちに覚えることができた」「テスト前の復習フラッシュがよかった」「皆で声を出すことが楽しかった」「フラッシュをやる度に学習が積み上がっていく感じがした」などの回答が得られ、「フラッシュ型教材」の評価の高さがうかがえた。
特に日本語のあまり得意でない生徒の表情が良くなってきていることから、一斉に読み上げることが学力の底上げにつながっているのを嬉しく思う。集中力や意欲を高め、かつ短時間で学習できることで学習時間にも余裕が生まれ、次への効果的な学びにつながることも確認できた。
英語で日常の生活を送っている生徒たちは、現地校の学習と両立させながら日本語を学んでいる。その熱心さに感心するとともに、一緒に学べる貴重な機会を得たことを大変ありがたく思っている。将来、アメリカと日本の架け橋となるであろう土曜学校の生徒達の言葉の力を高めるために、今後も与えられた時数の中で、「フラッシュ型教材」の活用の可能性を探っていきたい。