Case Studies

沖縄県恩納村教育委員会~「日常的なICT活用」指定研究報告会(山田小中学校)~

2013/11/11

小中

沖縄本島中央部の西海岸に位置し、リゾート地としても有名な恩納村。そして、教室の窓からは、おだやかな海原が・・・。会場の山田小中学校は、2012 年度から恩納村教育委員会の指定研究校となり、ICT 機器を活用した基礎知識の定着を念頭に学力向上に注力している。

2013年11月1日(金)、恩納村教育委員会教科等指定研究校として、「基礎的・基本的な内容の定着を図るための学習指導の工夫~日常的なICT活用における授業改善を通して~」というテーマのもとに、公開授業実践が始まった。

児童の実態・課題

山田小中学校では「沖縄県学力到達度調査」「全国学力・学習状況調査」の結果から、基礎的・基本的な内容がしっかりと定着している児童と、定着が不十分な児童の二極化をはじめ、定着度合のバラつきが課題となっている。

主題の設定と取り組み

  山田小中学校では、児童の実態・課題を踏まえ、授業態度、学習習慣、生活習慣の定着を目指して、指導の徹底を掲げ、プロジェクトをつくり、以下の実践をしてきた。
1) 学習の土台となる学習規律を整える
2) 基礎・基本の定着を目指した学習指導の工夫を全校体制で行う
3) 日常的な授業改善を行い、その手立てとして日常的なICT活用を行う
4) 小・中連携で校内研での授業改善を行う

積み重ねた研究授業と公開授業

  研究期間の2年間に実施した研究授業と公開授業の数は、小・中合わせて47回。小学校・中学校で互いに授業を見合うことで、授業改善の視点を意識し、授業作りや日常的なICT活用につなげていくことが山田小中学校の特徴となっている。
「ICTを使うための授業」ではなく、「授業のどこでICT活用ができるか、ICTの活用の視点を明確にしていくか」に重点をおいてきた。評価項目には「発問」「指示」「説明」「板書」「ノート指導」「学習規律・スキル」「ICT活用」「基礎・基本の習得を明確にした学習指導の工夫」を設けて、日々の授業が実践されている。指定研究事業と研究活動にあたり、今年度は玉川大学教職大学院・堀田龍也教授が全教員の授業改善に対する指導助言に入られている。
  併せて、「フューチャースクール推進事業実証校」である徳島県東みよし町立足代小学校教諭土井 国春先生の教材研究と授業の手法、ノート指導法を受けるなど、様々な取り組みを行ってきた。

公開授業をピックアップ

  当日の小学校・中学校の公開授業では、基礎・基本の習得を図るために、小学校・中学校の全学級において、一斉にフラッシュ型教材の活用からはじまった。
 今まで授業で学習した内容を復習するために、電子黒板に映し出された課題に対して、児童が一斉に答えていく。授業開始のウォーミングアップとして、効果的な役割を果たしているように見えた。

6年生の理科授業では、言葉では伝わりにくく、イメージをしにくい火山灰について、大型テレビに火山の噴火の動画映像を提示し、先生が注目すべきポイントを直接指し示すことで、児童全員の意識と視線が集まっていた。

4年生の算数の授業では、iPadを活用して、計算問題を個別学習として実践。
全児童が集中して制限時間内に問題を解き始める。隣の児童とのおしゃべりや、途中で投げ出す児童の姿は見られず、1問でも多く解答しようと、集中して問題を解いている姿が多く見られた。

授業の目的としている「垂直と平行」の説明をするために、電子黒板とデジタル教科書を組み合わせて、どのような場合が垂直となるかを、街の区画を示した地図を使って、視覚的に明確化して説明をしていた。

ノート指導でも、ICTのみに依存するのではなく、板書もしっかりと行う。
児童は、体系的に情報をまとめ、後で見直したときにもわかりやすいノートをとるように指導されている。

1年生の算数では、実物投影機でブロック操作を拡大提示して、ひきざんの説明をしていた。ブロックの操作を拡大提示して視覚的なイメージをすぐにもたせることができたようだ。口頭だけでは指示が難しい箇所を、ICTを用いてわかりやすく説明していた。また、説明後は、学習した内容を板書で整理するといった学習スタイルがどの教室でも見られた。

発表する児童に対して、全児童が発表者にしっかりと体を向けて話を聞く。一見あたりまえのことだが、毎回実施することは、そう簡単ではない。学習のきまりとしての「聞く構え」にも、統一した指導が行き届いていた。

  5年生の国語・漢字指導においては、「空書き」⇒筆順・注意点(止め・はね・はらい)を確認⇒「ドリルに指書き⇒「なぞり書き」⇒「うつし書き」 という流れを実践していた。電子黒板に大きく映し出されたデジタル教材(筆順ソフト)で、視覚的にもわかりやすく、全ての児童に指導が行き渡っていた。
他の教室と同様に、発表をする児童も、姿勢よく肘を曲げずにピンと手を挙げている姿は、普段からの学習規律の徹底を物語っていた。

研究報告全体会

今回のテーマは「基礎的・基本的な内容の定着を図るための学習指導の工夫~日常的なICT活用における授業改善を通して~」。いよいよ研究報告発表がはじまった。
山田小中学校では、課題を解決する手立てとして、4つのポイントを掲げていた。
1.日常的なICT機器の活用
ICT機器を常設して、授業の効率化を図る。基礎・基本知識の定着のため、ICT活用を全校体制とする。
2.学習規律・生活規律の徹底
授業に対する構え、土台作りが不可欠。学習規律の徹底を目指し、指導すべき事項を整理する。
3.朝の基礎・基本学習の時間、チャレンジタイム、補習の時間の活用
既習内容の定着を図る。全国学力学習状況調査、沖縄県学力到達度調査の対策。
4.日常的な授業改善に活かす校内研修
公開授業、玉川大学教職大学院・堀田教授の指導助言、日々の授業に活かせる校内研究。

現在、整備されている機器は、以下のとおり。
<常設>
・実物投影機
・プロジェクタ&スクリーン一体型電子黒板(82インチワイド)
・デジタルテレビ(52インチ)
・校務用PC(コンバチブルタブレットPC)
・デジタル教材(フラッシュ型教材・デジタル教科書・漢字筆順ソフト)
<共有>
・iPad 、iPad mini

 


研究の成果として、次のような意見が述べられた。

・教員向けにとったアンケートの結果から、ICTの有用性や活用頻度に、校内研究を行う前と比較して、飛躍的な伸びが見られた。
・児童のアンケートからも、ICTを活用した授業は、楽しい、わかりやすい等の回答があり、教員・児童ともに、ICT利用は授業改善の効果的な手立ての1つだという結果が見られた。
・これからの課題は、学力調査による学力の差も見られ、基礎的・基本的な内容を図る学習指導の工夫と、ICT機器のさらなる活用が必要と思われる。
・小・中連携を活かし、小学校での学習の積み残しをできるだけなくして中学校へ引き継ぐためにも、今後もICTを効果的に活用して、基礎・基本の徹底に努めたい。

【講評】日常的なICT活用と授業改善に向けて
~玉川大学教職大学院教授 堀田龍也先生~

冒頭、堀田先生は「何のために授業でICTを活用するのでしょうか?」と問いかけた。
そして、「ICTが導入されただけでは、授業の本質は変わらない。児童にわかりやすく見せられることだけが変わってくる。『わかりやすく見せられる』そのインパクトは大きく、視覚から情報を得ることにより、聞いただけでは理解出来ないことも理解できるようになる」

さらに、「ICTが得意な先生だけが使うものではなく、普通の教員が毎日活用できて学力向上につながることが重要である。学力向上に直結しないICT活用は意味がない」と話された。ICTの導入目的が不明瞭だった先生方にとっては、まさに納得のひと言であった。

また、学力向上にあたり、基礎・基本習得の重要性をあげられた。
「応用力が重視されている風潮があるが、基礎・基本の習得なくして応用が効くことはなく、順序を誤ってしまうと、学力向上には結びつかない。まず取りかかるべきことは、基礎・基本の徹底である」と。

次に、本日の公開授業を振り返りながら、ICTの果たす役割については、「重要なのは、従来の授業構成は崩さず、ICTの活用は授業のところどころに入れること。従来のノート指導も、実物投影機で、マス目に大きく丁寧に書くことをしっかりと教えること。
情報量が多いものは、どこが大事で見てほしいところか、先生が指し示すことで、注目するポイントが明らかになる。パワーポイントなどで、一度に多くの情報を与えてしまうと、情報量が多くて児童たちが把握しきれなくなるのは当然のこと」と助言された。

授業を円滑に進めるための、「学ぶ姿勢」「学ぶ習慣」「学び方」についても話が及んだ。机の上の教科書・鉛筆の置き方、発表者に向かって体を向けて背筋を伸ばして話を聞く姿勢など、学習規律の徹底も重要であると話された。

最後に、ICTを活用する上での大切なポイントとして、「継続」「普及」というキーワードを掲げられ、多くの教員が毎日継続して活用することが大事であり、「ICT=授業改革」ではなく、「ICT=授業改善」として誰でも使える簡単なICTから活用し始めることが大切、とアドバイスされた。
山田小中学校におけるICT活用のねらいについては、次のように話され、講演をしめくくられた。
1) 今期の学習指導要領を踏まえること
2) 「習得」優先で「活用」につなげること
3) ICTは「わかりやすい提示」に集中すること
4) 「学ぶ姿勢」「学ぶ習慣」「学び方」をしっかり学ばせること
5) 「わかる・できるから楽しい」を実現すること
6) 児童生徒の学習ツールとしてiPadを活用すること

恩納村教育委員会
石川 哲夫 教育長

恩納村教育委員会
長嶺 浩也 主任指導主事

恩納村立山田小中学校
地下 良哉 校長

■当日の公開授業一覧

学年 教科 単元 主に使用するICT


1年生 算数 ひきざん(2) 実物投影機・電子黒板
指導者用デジタル教科書
フラッシュ型教材
2年生 算数 かけざん(2) 実物投影機・電子黒板
指導者用デジタル教科書
フラッシュ型教材
3年生 算数 1けたをかけるかけ算の筆算 実物投影機・電子黒板
指導者用デジタル教科書
フラッシュ型教材
iPad
4年生 算数 垂直・平行と四角形 実物投影機・電子黒板
指導者用デジタル教科書
フラッシュ型教材
iPad & iPad mini
5年生 国語 本の世界を深める「雪わたり」 実物投影機・電子黒板
指導者用デジタル教科書
フラッシュ型教材
iPad mini
6年生 理科 大地のつくりと変化 実物投影機・電子黒板
指導者用デジタル教科書
フラッシュ型教材
iPad mini


1年生 社会 資源によるアジアとのつながり 実物投影機・電子黒板
指導者用デジタル教科書
フラッシュ型教材
iPad mini
2年生 理科 回路に加わる電流はどこも同じか 実物投影機・電子黒板
指導者用デジタル教科書
フラッシュ型教材
iPad mini
3年生 数学 図形と相似 実物投影機・電子黒板
指導者用デジタル教科書
フラッシュ型教材
iPad mini
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