授業でのICT活用の波は、中学校にも確実に広がり始めている。
その中で、「フラッシュ型教材」はどのような役割を担っているのだろうか。
長年フラッシュ型教材を使い続けてきた、米沢市立第二中の金隆子先生に、話を聞いてみた。
さまざまな教材、さまざまな手法で漢字の“シャワー”を浴びる
「今日の授業は、1時間まるごと漢字の習得にあてたいと思います。その中で、フラッシュ型教材もさまざまな形で活用する予定です。生徒たちにも教材を作らせてみようと思います」
拝見させていただいたのは、3年5組の国語の授業。まずは、『フラッシュ漢検3級』に収録されている対義語・類義語の問題から授業はスタートした。金先生が「対義語、促進」と発問すると、「抑制」と答える生徒たち。対義語問題と類義語問題をそれぞれ2回練習すると、金先生はあっさりと次の活動へ進んだ。小学校なら、出題方法や答え方を変えてもっと多く繰り返すところだ。
「中学3年生にもなると、数回見ただけでだいたい覚えますから、回数は少なめです。中学1年生なら、もっと多くの回数を行います。学年や生徒の学習進度に合わせて調節できるのもフラッシュ型教材の良いところです」(金先生)
次の活動は、「熟語カルタ取り」。熟語が書かれたカードを配り、二人1組になってカルタ取りを行う。たとえば金先生が「対義語、膨張」と読み上げると、「収縮」のカードを取る。生徒たちは真剣な表情で机上のカードに目を走らせ、勢いよく手を伸ばしては「取ったぁ!」と歓喜の声を上げる。
「脳と体を動かして、学びのウォームアップとするのがねらいです。対義語・類義語とは何かを、感覚的に身に付けさせる効果もあります」
カルタを終えたら、再びフラッシュ型教材。『フラッシュ漢検3級』の四字熟語問題に1分ほど取り組んだら、紙のプリントで小テストを実施。採点を終えたら『フラッシュ漢検』で熟語や漢字の読み問題を行い、小テスト。そしてまた『フラッシュ漢検』と、「フラッシュ→プリント」のサイクルが繰り返された。「静」と「動」のメリハリが効いており、流れるように授業が進んでいく。
次は、いよいよフラッシュ型教材の作成だ。班に分かれて、熟語や漢字の読み問題(全5問)を考案し、1問ずつ紙のカードに書き、完成したら代表者が各班を回って出題していくのだ。
「フラッシュ型教材を作ることで、語彙が広がり、興味関心も高まる。わかっているつもりだったけど、わかっていなかったことにも気づく。問題を作ることが、勉強になるのです」
驚かされたのが、その完成度の高さだ。見えやすいように問題は大きく丁寧に書くのはもちろんのこと、難易度も“みんなが答えられるやさしい問題から難しい問題へ”と話し合って並べ替えていた。作成に要した時間は、わずか5分程度。さらに出題のスピードも適切で、フラッシュ型教材の“ツボ”を押さえた見事な出来映えだ。こういう活動を日常的に行って慣れているのかと思いきや、「今日で2回目」と聞かされ再度驚いた。
「初めてフラッシュ型教材を作ったときは、難しすぎる問題を作ってしまう班もあったのです。そこで、どういう問題にすればいいかを話し合わせました。そのときの教訓をしっかり覚えてくれたようです。またこの子たちは3年間フラッシュに取り組んできましたから、『フラッシュ型教材はこういうものだ』というセオリーを肌でわかっているので、飲み込みも早いのでしょう」
フラッシュ型教材で学力向上の成果が出ている
最後に漢字検定3級問題に挑戦し、授業は終了。50分があっという間の、それでいて濃密な時間だった。フラッシュ型教材やカルタなど、さまざまな方法での漢字中心の学習を行ったねらいは何なのだろうか。
「今日は、『語彙を広げる時間』と位置づけました。既習問題・未習問題をまじえて、フラッシュ型教材に何度も取り組んだのは、漢字の“シャワー”を浴びさせるためです。漢字は“読み”を覚えただけではダメで、書いたり、意味を理解し、使いこなせるようになる必要があります。フラッシュ型教材を“読み”、紙のテストを“書き”、辞書で意味を“調べ”、問題を“作る”などと、さまざまな活動を通して、漢字を活きた知識として定着させます」
普段の授業では、授業の導入でフラッシュ型教材に取り組んでいるそうだが、その効果は大きいという。
「まず、クラスの雰囲気がよくなります。教室の雰囲気が活気づき、集中力が高まります。中学生は恥ずかしがって声を出したがらない年頃ですが、フラッシュ型教材を使えばみんなが大きな声を出して、クラスに一体感が生まれます」
学力の面でも、成果が出ている。授業の冒頭で毎回10分間、『フラッシュ漢検』を使った練習を2週間続けたところ、練習した「読み」「四字熟語」などの分野はすべて平均点がアップ。練習しなかった分野の平均点は横ばいだったことと比較すると、その効果は一目瞭然。特に学力が中位より下の生徒に効果的で、合計点が50点以上伸びた生徒もいるという。
「漢字が読めるようになると、読解力も上がります。教科書の長文を学習する前に、フラッシュ型教材で漢字だけ先に学習しておくと、読めるという自信がつき、漢字の読みでつまづくことがなくなるので、読解に集中できるのです」
金先生の授業には、もう一つ特徴がある。フラッシュ型教材は、係の生徒が操作や準備を行っているのだ。フラッシュ型教材が入った『フラッシュ・パック with acerボックス版』(※)を、係の生徒が次の教室へ運び、大型テレビに接続。ワイヤレスマウスを使って、操作も担当している。
「生徒といっしょに授業を作りたいので、役割を与えています。指名された生徒が小テストの答えを発表したり、生徒同士で採点するのも、受け身で授業を聞くのではなく、積極的に参加していっしょに授業を作ってほしいからです」
金先生の授業を拝見し、中学校でもフラッシュ型教材は明らかに有効なのだと強く実感した。
高い授業力と指導力があればICTはすぐに使いこなせる!
今回の取材で強く感じたのは、「授業力が高い先生は、ICTをすぐに適切に使いこなせる」という事実だ。フラッシュ型教材の“初心者”である曾我先生は、短期間でフラッシュ型教材の特長を理解して子どもたちの実態に合わせた活用を工夫し、学力の定着に結び付けている。まるで何年もフラッシュ型教材を使ってきたベテランのようなことができるのも、元々高い指導力や授業を作る力があるから “ツボ”をおさえた活用ができるのだ。今後は、算数や外国語活動でもフラッシュ型教材を使ってみたいとのこと。成果を上げること、間違いなし! これからも楽しみである。
新学習指導要領がスタートした中学校でも、授業でのICT活用の重要性が高まっている!
中学校の新学習指導要領も、小学校同様、学習内容が30年ぶりに増えました。この新しい学習指導要領に対応するには、授業でのICT活用が重要。そのため、米沢市も各教室に大型テレビを導入するなどICTの整備が進み、日常的に多くの教科で活用され始めています。
ICTは、生徒の興味関心を引き出し、わかりやすく教える効果があります。フラッシュ型教材も、短時間で学びが定着するとともに、何より集中力が高まり一体感が生まれます。
生徒だけでなく教員にとってもメリットがあります。ICTを使うことで、授業をスムーズに効率的に進めることができ、今改訂で求められている「習得・活用・探究」の「まなびの」サイクルを実現しやすくなります。このようにICTは、授業改善の有効な手段になり得るのです。
教員も日々新しいことを学び、取り入れていかねばなりません。全教員がICTの活用に取り組んでいくことが求められる時代だと思います。
※ 『フラッシュ・パック with acer ボックス版』とは、Windows7を搭載した超小型のデスクトップPCで、十分なスペックを持ちながらも軽量かつスリムなモデルです。