Case Studies

フラッシュ型教材は、授業が活性化し、知識の定着に有効な教材!

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 社会の情報化が急速に進み、21世紀を生きる子どもたちには情報活用能力の育成が求められている。学校教育においてもICT機器を活用した授業を行うための環境整備が急務となった。そうしたなか、新宿区では平成21年度から3か年計画として「学校の情報化」を進め、区内の全小中学校で「誰もが、いつでも、簡単に使用できるICT環境」の整備を実現させてきた。区立江戸川小学校を訪ね、フラッシュ型教材を用いた区独自の「新宿版ICT化教室」での授業を取材した。


子どもたちが大好きな「都道府県名クイズ」

 戦前に建てられたという、趣のある真っ白な校舎に足を踏み入れると、子どもたちの学びがこの校舎に見守られてきたのだと感じさせられる。落ち着いた空間に響く子どもたちの明るい声......。1学年1クラスの小規模校では、どのような授業が行われているのだろう。そんな期待を胸に、4年生の教室を訪れた。
 1時間目は社会科。現在、日本の都道府県を学んでいるところだ。この日は「八丈島」についての学習だった。黒板には、島の全景や主要産業など八丈島を知るための写真が並ぶ。八丈島に住む「コトー医師」から届いた島の写真だと紹介し、東京都と記された住所に子どもたちの注目が集まる。担任の髙橋正憲先生が呼びかける。「では、地図帳で八丈島がどこにあるかを探してみましょう」。子どもたちは嬉々として地図帳を広げ、島の場所を探す。「みんなの住む新宿区から、どのくらい離れているのかな」という髙橋先生の問いかけに、定規を取り出して、距離を測る子どもたち。「3cmだから......300km!」。どの子も既に学んだ縮尺の計算が身についているようだ。髙橋先生は子どもたちの理解度を確認すべく、どのように計算したかを尋ねる。一斉に14人の児童の手が挙がり、一人の女児が発表する。「地図には2cm=200kmと書かれているので、1cm=100kmだとわかります。新宿区から八丈島まで3cmだったので、100km×3=300kmと計算しました」。そして、髙橋先生が実物投影機で地図を画面に拡大表示し、画像にマーカーで直接書き込み、距離を測ってみると、確かに3cm。正解。みんなが大きくうなずいた。
 授業の終わりまであと10分という頃になり、髙橋先生が「それでは、これから都道府県クイズをします」と言うと、子どもたちは待ってましたとばかりに「やったー!」と大喜び。どの子もみんな、フラッシュ型教材が大好きなのだという。
 クイズを始める前に1~2分の時間を取り、都道府県名と場所の再確認をする。必死に覚えようとする子どもたちの表情は真剣そのもの。そして、クイズがスタートする。
 スクリーンに表示された「3・2・1 Go!」の合図や「都道府県の名前を言いましょう」の問題も、全員で声を合わせて発する。すると、子どもたちが「せーの」のかけ声とともにパンパンと手拍子を打ち、一人ずつ順番にスクリーンにランダムに映し出された地図を見て、該当する都道府県名を答え、さらにパンパンと手拍子。一拍置いて「正解!」と先生。そうして、子どもたちは次々と出題された内容にテンポよく答えていく。なかには、県庁所在地まで含めて答える子どももいる。徐々にテンポが早まっていくも、つまることなく、答えていった。
 そうしてクイズを2回終えたところで、1時間目終了のベルが鳴る。「もっとやりたい」という気持ちで、子どもたちがうずうずしているのが見て取れるようだった。休み時間になると、子どもたちが髙橋先生の周りに自然に集まり、「先生、もう1回!」とお願いして、都道府県クイズを楽しんでいた。

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算数でもフラッシュ型教材を復習に活用

 2時間目は算数。もともと144人の少人数だが、7人ずつに2分割して授業を行っている。算数では授業冒頭の10分間で、前回の授業で学んだ「単位」の復習にフラッシュ教材を使用した。「3・2・1 Go!」とみんなで声を合わせてスタート。「5.9km=□m」といった問題が表示される。社会科と同様のテンポで、一人ずつ答えていく。社会科のように、瞬発的に答えるのは難しいが、それでも、子どもたちはさっと計算して、テンポを乱すことなく次々と正解を出していた。
 その後は、この日のテーマである「小数の計算」の解き方を学んだ。黒板に髙橋先生が書いた「4.63+5.5+4.5」の解き方を、みんなで考え、発表し合う。「自分なりに計算して答えてください。そして、どのように計算して答えを導き出したのかをノートに残しておいてください」と 橋先生。思いおもいに子どもたちは計算し、指名されると、自分のノートを実物投影機で映し出して、解き方を説明する。筆算をした子もいれば、はじめに5.5と4.5を足して10を作り、そこに4.63を足して答えを出す工夫をした子もいる。「どちらの方法も正解です。でも、筆算では一度に計算しづらいこともあり、そんなときに、計算の決まりを使えば、素早く計算できるんですね。足す数と足される数は順番を入れ替えても答えは同じになることがわかりましたね」。髙橋先生の説明を聞き、子どもたちも解き方をしっかりと理解したのか、次々と同様の問題に挑戦していった。

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フラッシュ型教材の使用場面や内容は、授業の進度や子どもたちの学習状況に応じて、自由に選べる。4年生算数少人数クラスでも、先生によって選ぶ問題が違っていた。

子どもたちの「学ぶ意欲」が引き出された!

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 区が独自に開発した「新宿版ICT化教室」は、黒板上に設置した単焦点型プロジェクタ、資料などを映し出す実物投影機、教育用ノートパソコン、機器を配線したまま収納できる独自のIT教卓、反射しづらいスクリーン兼用ホワイトボードの五つで構成される。新宿区では、これらの教育環境を全教室で整備する計画なのだ。江戸川小学校では、まだホワイトボードが設置されておらず、従来の黒板にスクリーンを設置して授業を行っているが、今年度中にすべての教室にホワイトボードが設置される予定だ。
  橋先生はこれらの機器を活用し、活気あふれる授業を展開している。黒板と教科書、配布資料で成り立っていた授業が、機器の導入により、子どもたちにはわかりやすくなり、学んだ内容が定着しやすくなったようだ。なかでも、フラッシュ型教材は効果を存分に発揮している。
 「2年前までは都道府県名を覚えるには、白地図のプリントを配布し、書き込んで覚えさせていましたが、あまり子どもたちの知識は定着していなかったのです。それが、フラッシュ型教材を使い始めてから、まず子どもたちの学びへの意欲が高まり、クイズ感覚で繰り返し学習するうちに、定着しているのを実感しています」
 使い始めた当初は、現在のようなテンポではなく、いわゆるフラッシュカードの感覚でパッパッと切り替えて見せていたという。だが、子どもたちから手拍子でリズムを取った方が答えやすいし、覚えやすいという声があがり、現在のような使い方をするようになったそうだ。
 「そして、都道府県名を覚えることを主体にフラッシュ型教材を使い始めたら、子どもたちは、漢字や算数でもフラッシュ型教材で勉強できたらいいのにと、どんどん意欲的になってきました。そうした子どもたちの声を受けて、今では、算数でも使うようになりました」
 フラッシュ型教材は子どもたちの学ぶ意欲を引き出し、授業を活性化させた。持田裕代校長は「本校では手拍子に合わせて声に出して覚えていく方法を、髙橋教諭が子どもたちと編み出しました。たとえ間違えても、恥ずかしい思いをしなくてもよいように、導入当初は、全員で一斉に声に出し、答え方に慣れていきました。今では一人ずつ順番に答えられるようになり、子どもたちも意欲的に取り組んでいます。テンポよく声を出して覚えるので、知識がしっかり定着するのがフラッシュ型教材の良さですね。授業のウォーミングアップや復習にと、授業内容に応じて使う場面を選べる自由度があるのも良いと思います。これからも、その良さを生かし、4年生を中心に他の学年でも活用していきたいと思います」と話された。
 江戸川小学校でフラッシュ型教材を本格導入したのは今年度4月からのこと。それにもかかわらず、先生も子どもたちも、教材に慣れ親しみ、すっかり使いこなしている。集中力が高まり、クラスの一体感が生まれ、学習意欲も高まる。フラッシュ型教材の良さを存分に生かした魅力ある授業が展開されているようだ。

誰もが使いやすいICT環境を整備して稼働率もアップ!

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新宿区教育委員会事務局
教育支援課 統括指導主事
長田 和義
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新宿区教育委員会事務局
教育支援課 教育活動支援係
主任主事(学校情報化担当)
桑野 明

 「これまでの自治体のICT環境整備は、最新のパソコンやソフトウェアを配備したにもかかわらず、数年後にはほとんど使われないという事例が多く見られました。それには、教員のICT活用能力不足や、ソフトやコンテンツ不足、さらに、ICT機器を使うために授業計画を修正し、指導方法を変更しなければならないという課題があったのです。そこで、新宿区では、パソコンが苦手な教員でも使いたくなるようなICT環境づくりをめざしました」と話すのは、教育委員会事務局教育支援課教育活動支援係 主任主事(学校情報化担当)の桑野明さんだ。平成20年度から学校の情報化を担当して現在に至る。
 新宿区が進める学校の情報化は大きく二つに分かれる。一つが校務用ネットワークの整備、もう一つが教育用ネットワークの整備だ。
 校務用ネットワークは、校務の効率化やセキュリティの確保に重点を置き、無理なく教員のICT能力を向上させるものである。
 「まず、教員が校務用ネットワークを使い、便利さを実感したのちに、教育用ネットワークの構築へと移行したので、先生方も授業でICT機器をスムーズに使うことができたようです。教育用ネットワークは、特別教室に整備するのではなく、区内全小中学校の普通教室660教室に、区独自の『新宿区版ICT化教室』を整備することが特色です。先生方が従来の授業内容を変えることなく機器を活用できるように、どんな先生にも使える環境整備を実現しました」
 桑野さんによれば、その使いやすさが功を奏して、実際に区内の小中学校でのICT機器の稼働率はこの3年で急速に高まり、現在では約8割の教員が、1日に最低でも1回は使用しているという。短焦点プロジェクタを壁付けし、実物投影機と教員用PCを接続したまま取出し、収納できるIT教卓、更には教室のどの角度から見ても反射しない低反射型のスクリーン兼用ホワイトボードの5点セットからなる「新宿区版ICT化教室」を区内全小中学校40校の全教室へ展開中であり、今年度完成の予定だ。ホワイトボードマーカーについても経験年数が長くチョークに慣れ親しんだ教員がスムーズに移行できるようホワイトボードマーカーも厳選した。
 そして、「稼働率が上がったのも、授業スタイルを変えずに機器を使うことができるから、というのが大きかったでしょうね。電子黒板を採用する自治体も多いようですが、新たな機器の使い方を覚え、電子黒板を使うことを前提とした授業を作ることになると、教員側の負担も増えます。私たちは、従来のスタイルを保ちながら、さらに教員の工夫次第で、より魅力的な授業をつくることができるという方向を選んだのです」と、教育委員会事務局教育支援課 統括指導主事の長田和義さんは、独自のICT環境整備について説明する。
 また、区内の全小学校でフラッシュ型教材を採用した理由については、「反復練習や知識の習得に効果的な教材であり、教員が授業スタイルを変えずに導入できることもこの教材の良さだと思います。そして、教材だけで完結せず、教員が専用ホームページからダウンロードするなどして補足して使うなど、教員独自の工夫を施せる余地があるのがいいですね」と高い評価を述べた。
 新宿区が学校情報化を進めるにあたり、平成21年度の国の「緊急経済対策に係る学校ICT環境整備事業」の予算を活用した。桑野さんによれば「東京都は当時、学校情報化の環境整備が遅れていた自治体だった」とのことだが、新宿区としては、都内でも先駆け的な存在として、この3年で急速に情報化を進めてきた。「研修のいらない環境整備」をめざしたという新宿区。もちろん、サポート体制も整え、教員同士のコミュニティが構築され、情報共有も進んでいる。教員も子どもたちも使いやすい、独自のICT環境はもうすぐ完備する。

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