登米市立北方小学校では、すべての教室にICTを利用できる設備を整え、先生方はみな、日常的にICTを使った授業を行っている。今やICTなしの授業は考えられないと言うが、ここまでの道のりは決して易しくはなかった。北方小のICT導入と活用に尽力されてきた皆川寛先生の授業をはじめ、活気あふれる授業の様子を見せていただいた。
フラッシュ型教材は、子どもたちの集中力が違う!
我々がまず訪れたのが、多目的室で行われていた5年生の外国語(英語)の授業。北方小きっての若手教諭、佐藤純先生の周りを子どもたちがとり囲み、全員で『小学校のフラッシュ英単語』に取り組んでいた。今回のテーマは曜日の名前。MondayからSundayまで全員でリズムに合わせて発音し、最初は音声あり、次は音声なしでアルファベットのみ、さらに順序もランダムにと、次第にレベルを上げていく。「私自身、発音には不安があるので、ネイティブによる音声があるのはとても有り難いです」と佐藤先生。ただ英単語を覚えるのではなく、小学生の段階から正しい発音を身につけることは、将来的に必ず活きてくることだろう。
「実は、英語のフラッシュ型教材については、夏休みに皆川先生に教わったばかりなんです」と言う佐藤先生だが、それを感じさせないスムーズな進行で、フラッシュ型教材を使ったビンゴゲームへと移る。ここでは、『小学校のフラッシュ英語表現』にある"What subject do you like?"という問いを使いつつ、答えとなる教科名のシートは佐藤先生のオリジナル作品を使用。「いろいろと工夫しながら試行錯誤しています。ICTを使ったフラッシュでは、カード(紙)よりもテンポ良くできるし、何より子どもたちの画面への引き込まれ方、集中力が格段に違いますね」と佐藤先生が語るように、子どもたちは楽しみながらも真剣な表情でビンゴゲームに取り組んでいた。
大型テレビとスクリーンは用途に合わせて使い分ける
続いて見せていただいた2年生の算数の授業(担任 大崎元寛先生)では、実物投影機で子どものノートをスクリーンに映し出し、赤ペンで書き込みながらポイントを解説。ペンによる書き込みや消去が自在にできるというスクリーンの特性を活かした授業が展開されていた。
さらに、「スーパーマーケットではたらく人」というテーマで行われていた3年1組の社会の授業(担任 高橋幸恵先生)では、スーパーマーケットにおけるさまざまなシーンの映像を大型テレビに映し出し、ビジュアルを活用して子どもたちの視線を集めていた。実はこの大型テレビは、登米市内の小学校に一斉に導入されたもの。スクリーンよりもはっきりと見やすいというメリットがあるものの、スクリーンのように直接書き込むことができないので、先生方はそれぞれの用途に合わせて使い分けているという。
次に訪れた3年2組の授業(担任 小野寺鉄子先生)では、子ども自身が実物投影機で写真や資料を映し出しながら、みんなの前で話すという練習を行っていた。自ら指し棒でポイントを指し示しながら説明するというのは容易なことではないが、とても良いプレゼンテーションの練習になることだろう。
知識を押さえるためにフラッシュ型教材を活用
最後はいよいよ、皆川先生が担任を務める6年生の社会の授業を拝見した。6年生ともなると学習内容も難しくなり、この日のテーマは江戸幕府の参勤交代について。「参勤交代という用語は授業の最後に示します。単に用語の意味を解説するのではなく、考えさせる授業を目指しています」と皆川先生が語るように、大名行列の絵を見て気づいたことを挙げることから入っていく。実物投影機で資料集にある絵を大型テレビに映し出したり、パソコンと接続して自身が作成したポイントをまとめたシートを映し出したりと、さすが北方小のICT活用の先駆者と感心させられた。「実物投影機を使うときには、重要な箇所をズームにして見せることが多いのですが、どこをどう見せるかと考えることは、私たち教える側の授業力の向上にもつながるんです」と皆川先生は語る。
忘れてはならないのが、授業の最初と最後に行う『小学校のフラッシュ基礎・基本』だ。人物と関連する出来事を選ぶ二択問題で、「一問一答式で簡潔に答えられるので、自分は理解しているんだという自信につながるんです。知識として覚えるべき事柄をしっかりと押さえるために、フラッシュ型教材はとても有効です。長時間使うというのではなく、授業を始めるときのウォーミングアップや単元が終わったときの復習には、とくに効果的ですね」と皆川先生は語る。
ICTは教員の授業力を伸ばすためのツール
「ICTはあくまでもツールです。ICTを中心にして授業を構成するのではなく、要所要所でICTの良さを活かしていくことが大切だと思います。ICTを導入したからといって、子どもたちの生活態度や意欲が根底から改善される...ということはないと私は考えています。つまり、土台となるしつけなどはきちんと行う必要があると思うのです。土台がしっかりとしているからこそ、ICTの効果も大きく現れるのです」と皆川先生が語るように、北方小では、持ち物や授業中に机に出すものなどの指導を徹底しているという。校内ですれ違う際に子どもたちが元気な声で挨拶をしてくれたことも、この学習訓練の現れだろう。
「北方小の教員はみなICTを使えますが、パソコンに接続して...となると、まだ全員というわけにはいきません。今後は、フラッシュ型教材の活用法などを少しずつ広めていきたいと思っています。そのために、eTeachersからフラッシュ型教材をダウンロードしてフォルダにまとめるなど、他の教員が使いやすいように準備を進めています」と皆川先生。その熱心な姿勢と優しくも強いまなざしが印象的だった。
もはやICTは使って当然の存在となりつつある北方小では、個々の先生がこれまで培ってきた授業力をさらに伸ばすためのツールとして、ICTを位置づけていた。このツールを使ったよりよい授業を目指す北方小の、さらなる挑戦に期待したい。
教員の熱意に心動かされ、ICTの有用性を実感する
本校は平成16年の段階ではICTの設備はゼロでしたが、皆川教諭を中心に授業でICTを活用する動きが進み、ICTの設備も少しずつ整えていきました。とはいえ予算は限られていますので、当時は自費で機器を購入した教員もいたのです。その熱意には心を動かされましたし、ICTの有用性も実感しました。そして昨年、校内の全11の教室にICTの設備をそろえることができました。待ち望んで得たものですから、宝の持ち腐れということはなく、学校全体で活用しています。
私も算数の授業を担当しているのですが、ICTはビジュアルの要素が強く、五感を使って学ぶという意味でもとても良いと感じています。私も含めて、ICT=パソコン...というイメージがあったのですが、プロジェクターと実物投影機をセットで使えるようになったことで、教員の間でもICTがずっと身近なものになったと思います。ICTにはさまざまな可能性があると思うので、今後が楽しみです。