富山県氷見市立明和小学校
【フラッシュ型教材実践レポート】
英語を学び始める「入り口」で
フラッシュ型教材が効く
- 6年生担任 表克昌先生
小学校で英語活動が始まることを不安視する声をよく聞く。「何をどう教えればいいのかわからない」「ALTに来てもらっても、初めて英語に触れる小学生が理解できるかどうか……」「教師自身、英語を教えた経験がないので心配」。その答えを探し求めて、緑豊かな氷見市立明和小学校へ足を伸ばした。
「この色はなに?」「green!」
「この動物は?」「elephant!」
6年生の教室に、子どもたちの元気な声が鳴り響く。石川県境にほど近い富山県氷見市立明和小学校は、全校生徒62名の小規模校で、6年生は7名。だが教室に響く声量は、30人規模学級に負けていない。アルファベット、色の名前、動物の名前と、次々と表示されるフラッシュ型教材の問題に、全員が自信を持って大きな声で答えていた。
- 動物の名前を英語で答えるフラッシュ型教材では、動物イラストの一部分だけ見せる、少しずつ見せていくなどの工夫も。「クイズ風にすると、集中力が増すんです」
「この子どもたちは、本年度から本格的に英語を習い始めたんですよ」と、担任の表先生に聞かされて驚いた。毎週1時間習っているとはいえ、今はまだ6月。たった2カ月で、これほど堂々と自信に満ちて答えられるものなのだろうか。
「みんな英語が上手だね」と感心しながら声をかけると、ある子どもが照れくさそうに笑いながら答えてくれた。
「正直言うと、英語はよくわかんない。英単語も読めないし。でも、フラッシュにはイラストや色がついているので、なんとなくわかる。ゲームみたいで楽しいし、みんなと一緒に言えるから安心」
- 自分の描いた絵も使って、好きな俳句を英語で発表。「英語でどう言えばわかりやすい?」と表先生にアドバイスを求めながら、英語の説明文を練っていったという。
なるほどと、膝を叩いた。フラッシュ型教材には、文字だけでなく、イラストや色や図が入っているから、「なんとなく」わかる。そしてゲーム感覚で楽しみながらみんなと一緒に何度も繰り返しているうちに、最初は「なんとなく」だった理解が深まり、定着していく。初めて英語に触れる小学生にとって、フラッシュ型教材はとても心強い教材なのだ。
「教師にとっても、ありがたい教材です。実はアルファベットと色の名前の教材は、チエルのホームページからダウンロードしたモノなんです。以前は紙のカードで自作していましたから、制作の手間がグッと楽になりました。また紙のカードより大きく、カラフルに見せられるので、子どもの集中力も高まりましたね」
伝えよう、理解しようとお互いが
努力し続けてこそ訪れる幸福の瞬間
- ALTも、アメリカの詩をイラストを交えて紹介。プロジェクタで映し出されたイラストを見ながら、”What is this?”とALTに質問していた。「伝え合うには、自分を理解し、相手を理解しなくては。異文化に触れ、日本文化と同じところ、違うところに気付かせたいと思っています」
フラッシュ型教材でウォームアップを終えた子どもたちは、今日の単元「日本とアメリカの詩」に突入した。ALTの先生に、自分の好きな俳句や短歌を、手書きの絵を見せながら英語で紹介するのだ。
「I like this Haiku. 『古池や 蛙飛びこむ 水の音』。This is flog. This is old pond……」
日本語混じりのつたない英語ながらも、子どもたちはALTの先生にわかってもらおうと一生懸命。この活動で、印象的だったシーンが2つある。ある子どもが、「砂遊び」を英語で説明しようとして、一瞬言葉に詰まった。もし英語活動に消極的なら、うやむやにして飛ばしてしまうところだ(英語が苦手な大人なら、曖昧な笑みを浮かべてごまかすだろう)。だがこの子どもは表先生や周りの友達に助言を求めて、「これは雀がplay with sandしているところです」としっかり説明した。伝える努力を放棄しなかったのだ。
- 英語教育に力を入れている氷見市では、市内の全小学校にALTを派遣。5、6年生は毎週1時間、ALTとともに英語の授業を行っている。「英単語をほんの少しだけ知っている子どもと、日本語を少し喋れるALTが、お互い歩み寄って理解し合う。素晴らしい関係だと思います」
もう1つの印象的なシーンは、ALTが子どもの俳句を”So peaceful!”と評した時に訪れた。「Peacefulって何?」と、すかさず子どもが食いついたのだ。ALTはnot warと説明したが、「Warって何?」と子どもはまだ理解できない。ALTは黒板に戦車や戦闘機の絵を描き、ジェスチャー混じりで説明し続けるがなかなか子どもに伝わらない。説明は延々2分ほど続いただろうか。ある子どもがハッとした表情で叫んだ。「Warって戦争のことだ! じゃあnot warってことは……戦争ではない……あ! 平和のことだね!」
クラス中から、どよめきのような興奮した声がわき起こった。お互いが伝えよう、分かろうと努力し続けた結果に訪れた意思疎通の瞬間に、筆者も背筋がゾクゾクッとした。
「私が小学校英語で学ばせたいのは、まさにコレなんです。伝え合う、理解し合う喜びを体験させたいんです」
ただ歌を歌ったり、ゲームをするだけで終わらせたくない。中学英語の先取りみたいな授業はしたくない。そんな表先生の思いは、子どもたちに確実に伝わっている。授業を終えた子どもたちに、「英語は好き?」と尋ねてみたところ、ある子どもがこんな回答をしてくれたのだ。
「ALTの先生に英語で質問されると、意味がわからなくてドキドキする。でも英語で発表したり質問したり、ALTの先生にアメリカのことを教えてもらったりするのはおもしろい。伝え合うのが、楽しいです」
新・学習指導要領は、小学校英語活動のねらいをこう定めている。外国語を用いてコミュニケーションを図る楽しさ、大切さを体験すること。表先生の授業には、来るべき小学校英語教育時代への「答え」が、そこかしこに散りばめられている。