宮城県登米市立北方小学校
- 6年1組担任 皆川寛先生
【ICT活用レポート】
「さぁ、目覚ましするよ!」
穏やかな午後の日差しが降り注ぐ5時間目、皆川先生の声が教室に響き渡った。
「モノの数え方を出題するよ。お箸は?」「一膳!」「お椀は?」「一脚!」
ホワイトスクリーンに次々と映し出されるフラッシュ型教材の問題に答えるうちに、眠そうだった子どもたちの顔に生気がみなぎってきた。今日は国語の単元「百年前の未来予測」の5時間目(全10時間)。各自が未来を予測する分野を決め、「現在の様子」「未来予測」「予想される問題点」についてワークシートにまとめる。皆川先生は、教科書に載っている100年前のクルマや電話機、蒸気機関車の写真やイラストを実物投影機で映し出し、子どもたちに問いかけた。
- 「フラッシュ型教材は、学習の準備運動として効果的。気だるい5時間目でも、繰り返し大きな声を出すことで、頭がシャキッとしてきます」
「今のクルマとどこが違う?」「新幹線と見比べて、進化した点を考えよう」
最初は見た目の違いを問い、段々と中身や技術についても考察するように発問を深めていく。多様な視点で考察するトレーニングを積み、個々の未来予測に活かすねらいだ。
次いで、子どもたちが未来予測する分野を発表した。
「僕は100年後のクルマについて未来予測します」「私は北方小の50年後を考えます」
次々と挙がる分野名を板書しながら、皆川先生はこう問いかけた。
「ロボット、電池、テレビには共通のテーマがあるね。なんだろう?」「科学、でひとくくりにできると思います」と、子どもたち。カテゴリー分類することで各々の分野が関連していることに気づかせ、視野や発想を広げさせる意図がうかがえた。
- 言葉で長々と説明するよりも、記入例を見せた方が早く確実に理解でき、貴重な授業時間を有効に使える
「では、ワークシートに未来予測をまとめてもらいます。何をどう書けばいいか見当のつかない人もいるでしょうから、先生が例を作ってきました」
と、皆川先生は「学校の100年後」についてまとめた「記入例」を実物投影機で映し出した。
「何を書けばいいかわからず固まってしまう子どもを、導く手立てです。具体的な記入例を示せばスッと理解できるので指示の時間が短縮でき、本来の活動時間を多く取れます」
- 授業の最後に、子どもたちは実物投影機で自分のワークシートを映し出して発表を行った
事実、子どもたちは迷うことなくサッと作業に取りかかり、鉛筆を動かしていた。
ピンポイントでICTを活用し、効果を挙げている皆川先生。だがICTは「授業を改善する4つの手段の一つ」と言い切る。
「本校は文科省の『確かな学力育成のための実践研究事業』の指定を受け、子どもを伸ばすために授業の改善に取り組んできました。授業改善の手段として挙げたのが、『発問・指示の吟味』『ノート指導』『話し合い指導』、そして『ICT活用』でした。ICTだけではダメ。発問や指示、ノート指導や話し合い指導こそ教師に不可欠なスキルであり、これら無くして授業改善も学力向上もありえないと、研究授業を通して気が付いたのです」
- 北方小の先生方が議論を重ねて作り上げた、「ICT活用の目的と効果的な活用場面の分類表」。「ICT初心者の先生方は、何から手を付ければいいかわかりません。使用する場面と目的を分類し示すことで活用イメージを持ちやすくなり、明確な目的意識を持って取り組めるようになりました」
と同時に、ICTは発問から話し合い指導まで、あらゆる場面で威力を発揮できる強みを持つことも発見。活動例を見せれば指示が通りやすくなり、ノートを実物投影機で大きく映し出せばノート指導に効くのだ。
「ICTは教師に不可欠な授業力を下支えし、授業改善を促す起爆剤になります。今では本校の全教師が日常的にICTを使っていますし、その結果授業の改善も進み、子どもの学習意欲や関心も高まりました。使う場面と目的をしっかり意識することが、ICT活用の効果を挙げるポイントだと思います」
ICT普及当初は、ICTを使うこと自体が目的のような活用をする学校もあった。が、今やICTは授業を改善する手段の一つとして確実に授業に浸透しつつあると、皆川先生の授業を拝見して確信した。
【富山大学人間発達科学部准教授 高橋純先生の授業解説】
ICT活用が授業改善のための一つの手段に位置付いているところがポイントだ。ICTは道具だとか手段だとかよく言われるが、実際には、たまにしか使われなかったり、大がかりな実践だったりする。ICT活用の日常化を目指す上でも、たくさんのヒントを皆川実践から読み取ることができる。