Case Studies

ネットワークの「検証→仮説→検証」で安定的なGIGA環境を実現

―茨城県―
つくばみらい市教育委員会

1人1台端末をベースにした「令和の日本型学校教育」では、無線LANネットワークの整備が不可欠で、その円滑な運用にはアセスメント(評価)がカギを握る。茨城県のつくばみらい市教育委員会に工夫と取り組みを聞いた。

山梨大学教育学部附属 教育実践総合センターやまなし情報教育推進室

つくばみらい市教育委員会
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茨城県つくばみらい市福田195番地
TEL: 0297-58-2111

「つながらない原因の特定」へ
無線LANをモニタリング

つくばみらい市では、文部科学省のGIGAスクール構想を受けて、新型コロナウイルス下の2021年2月に市内の公立小学校10校と公立中学校4校にiPadを整備しました。

鈴木 私は2022年4月に今の部署に配属されると、大規模校などから「1人1台端末のネットワークがつながらない」「遅い」という声が耳に入ってきました。例えば、富士見ヶ丘小学校では児童数増加を受けて2021年11月に校舎を増築し、Wi-Fiも追加整備しました。翌2022年4月に増築した校舎の利用が始まると、児童数が1100人を超えていることもあり、学校から「インターネットに接続できない」との相談を受けるようになりました。

平賀 富士見ヶ丘小学校にはICT支援教育アドバイザーによるオンラインアセスメントを実施し、ネットワーク構成図を提示しながら問題点を探りましたが原因は見つかりませんでした。体育館にWi-Fiを整備したこともあり、2023年1月から2月に校内で接続テストを実施するとクラスの4分の1程度がインターネットにつながりませんでした。アクセスポイントのリースタイム(割り当てられたIPアドレスの使用時間)を「1日→1時間」に短くしてネットワークの遅延改善を試みましたが、期待した効果は得られませんでした。

 校長先生を始め現場の先生方は、クラウド環境の1人1台端末を使った新しい授業に備えて研修を重ねてきました。しかし、ネットワークがつながらなければ一歩も前に進まず、子供たちの学びを止めかねない。そんな時、県内の他の学校関係者から無線通信可視化・安定化ソリューション『Tbridge®』(ティーブリッジ)の話を聞いてチエルに相談しました。

『Tbridge®』を使ったネットワークアセスメントはどのように進めたのですか。

図1:通信プロトコル(通信手順)における無線環境下でのボトルネック発生のメカニズム
図1:通信プロトコル(通信手順)における無線環境下でのボトルネック発生のメカニズム

鈴木 富士見ヶ丘小学校では、7割以上のiPadがネットワークにつながらない状態でした。しかも原因が通信機器の不具合か、パケットロスの発生によるものかも分かりません。そのため、まずアセスメントの目的を「つながらない原因の特定」とし、関係者で共有しました。

 具体的には、2023年3月を約1週間ずつ3つの期間に分けて実施しました。第1期は『Tbridge®』の最適化機能をOFFにして通常の学校ネットワークを、第2期はONにして通信改善状況をそれぞれモニタリング。第3期は再びOFFにして通常の学校ネットワークをモニタリングしました。

 『Tbridge®』は、接続使用者数、セッション数、ダウンロードやアップロードのトラフィック、パケットロス率、再転送率、データ転送の遅延率などの統計情報がPC画面に高速表示されるので、通信状況が誰でもスムーズに確認できます。このように『Tbridge®』の最適化機能を応用して、富士見ヶ丘小学校の障害の有無や無線LANの品質および安定向上を検証しました。

平賀 『Tbridge®』の最適化機能のON・OFFの切り替えにより、通信速度には一定の改善が見られたことで、私たちは「当市は行政や教育などのネットワークをセンターで集約管理している。利用人数に対してトラフィック量が不十分なのでは?」という仮説を立てました。

 2023年4月からは授業支援アプリケーションを導入することで、オンラインを活用した授業のiPad利用がより加速することが確実視されていました。そこで市の各部署と調整を進め、同年5月の第2回議会定例会でローカルブレイクアウト構築の補正予算を計上。同年10月に行政関係のネットワークから教育関係のネットワークを切り離し、インターネットに直接振り分けました。

DHCPの払い出しを担う
「スイッチ役」に着目して改善

ローカルブレイクアウトの効果はいかがでしたか。

鈴木 確かに通信速度は大きく改善しました。しかし、「インターネットにつながらない」という当初課題は解決できませんでした。この状況を受けて私たちは第2の仮説として、ネットワークがつながらないのはパケットロスなど無線LANの運用部分ではなく、コンピュータがインターネットに接続するのに必要な設定を自動で行うDHCP(Dynamic Host Configuration Protocol)や関連機器に原因があるのかもしれないとの仮説を立てました。

平賀 当市では、GIGAスクール構想に基づく1人1台端末の配備と、日常的な通信環境の保守は別のベンダーが担当しています。アセスメントでは、各社の営業担当と技術者にも学校に集まってもらい、『Tbridge®』による検証結果を基に議論しました。

 参加者はそれぞれの立場から発言するので時間はかかりますが、先生方の1人1台端末を活用した授業を一日も早く行いたいとの熱意に応えるためにもしっかりとしたアセスメントは不可欠という認識のもと、粘り強く話し合いを続けました。

鈴木 校内と外部のインターネットなど複数のネットワークがつながった状態において、宛先のIPアドレスごとにパケットを振り分けたりする機器に「ルーター」と「L3スイッチ」があります。一般に、ルーターはLANとWAN(外部ネットワーク)の境に設置。一方のL3スイッチはLAN内で使われます。

 当市では、IPアドレスを払い出すDHCPの役割をL3スイッチが担っていました。各ベンダーとの話し合いを経て、DHCPの払い出し機能をL3スイッチからルーターに持たせたところ、懸案の「インターネットにつながらない問題」を解決することに成功しました。

図2: DHCPの払い出し機能をL3スイッチからルーターに変更した後の日別ユーザー数比較
図2: DHCPの払い出し機能をL3スイッチからルーターに変更した後の日別ユーザー数比較

 図2は、スイッチ役をルーターに変更する前と変更した後の日別ユーザー数比較です。L3スイッチからルーターに変更した後の2023年11月は、それまでのようにつながる端末とつながらない端末が不規則に発生することなく、使用時間中は全児童の端末がインターネットにつながっている様子が明らかです。L3スイッチの不具合については検証機を用いて、老朽化による一部故障であることが判明しました。

平賀 かつては7割以上のiPadがクラウド環境で使えなかった富士見ヶ丘小学校ですが、今は100%がネットワークにつながっています。

つくばみらい市の今後のネットワークアセスメントの予定を教えてください。

鈴木 現在、富士見ヶ丘小学校と陽光台小学校の2つの大規模校に『Tbridge®』を導入して安定的なネットワーク運用を実践しています。2024年の夏には、今回の成果をエビデンスとして市内の全小中学校もローカルブレイクアウトする予定です。ネットワークの専門知識が必要なアセスメントは、予算や人員が限られている教育委員会だけで実践するのはなかなか難しいのが現実です。学校現場、ICT支援教育アドバイザー、チエルを始めとした外部のベンダーの皆さんの知恵とスキルもお借りしながら継続して取り組んでいきます。

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