Case Studies

デザイン力で踊るような授業に豊かな思考力を育む英語教材

―大阪府―
追手門学院大学

グローバルなマインドを持ち、ローカルで活躍できる人材――。追手門学院大学の国際教養学部国際教養学科が学生に目指してほしい将来像の1つだ。英語をコミュニケーションツールとして使いこなせるための工夫が、カリキュラムに散りばめられている。

デザイン力で踊るような授業に豊かな思考力を育む英語教材
テンポよく学生に語りかける松宮新吾先生
追手門学院大学

追手門学院大学
〒567-8502 大阪府茨木市西安威2-1-15
〒567-0013 大阪府茨木市太田東芝町1-1

1888年創設の大阪偕行社附属小学校を淵源とし、1966年に大学を設立。経済、経営、地域創造、社会、心理、国際教養の6学部と大学院3研究科から成る学生数約8000人の大学。2022年4月に国際教養学部を改組し、国際学部と文学部を開設。大学通信社「教育力が高い大学ランキング2020」関西私大5位。

共通意識は自分の思いを英語で伝えること

 「人として大切なアイデンティティとダイバーシティは他人との関わり合いの中でしか養えない力。だからこそコミュニケーション力を磨くことが大切で、その際の思考力を豊かにする武器が自分の言葉です」。追手門学院大学・国際教養学部の松宮新吾教授は、2021年度上半期最後のゼミで学生にこう語りかける。

 松宮先生の英語演習ゼミは1回の授業が105分。この間、テンポよく学生との対話や学生同士の議論が交わされ、時間を忘れる展開の早さはまさに「踊るような授業」だ。参加する学生の共通意識は、自分の思いを英語で伝えること。語彙レベルの高さだけでなく、活用力が問われる授業において教材に用いられているのがABLishだ。

 松宮先生が開発に携わったこの教材は、新聞を読むように旬の話題を今の英語で配信する。逐次の日本語を表示するチャンクモードや音声配信機能など、英語を「聞き読み」する力を学生自身の習得レベルに応じて活用できる。

時事を知るとともに生きた英語を学ぶ

 クラウド型のデジタル教材であるABLishで配信される英文ニュースは、世界的に関心の高いサステナビリティや国際経済、人権やジェンダーなど多岐に渡り、学生は題材を通じて時事を知るとともに、旬の単語を交えた生きた英語を学ぶ機会を得る。ゼミに参加する学生は、「昔から見ていたセサミストリートに自閉症を持つジュリアという新キャラクターが登場したニュースは、日本のアニメとの違いなど意外性が記憶に残っています」と語る。

 取材時に参加したゼミでは「里親制度」のニュースを元に、その社会的背景や子どもの発育上の意義などを原文の英語を解釈しながら意見を出し合う姿があった。松宮先生はゼミを通じて、「表面的なunderstandではなく、実感を持ってrealize、appreciateする次元の理解を得てほしい」と話す。

個別に学生と対話しながら進める授業
個別に学生と対話しながら進める授業

学生が自分の学習の経歴を可視化するポートフォリオ

 ABLishは、PCのほか、タブレットやスマートフォンにも対応する。週に3回配信されるニュースには、内容の理解度を確かめる4択のクイズがあり、キャンパス外でも身近に英語に触れられる。いずれの端末でも使い勝手がよく違和感なく使えていると多くの学生が評価している。記事の内容がプレゼンコンテストの資料として役立ったという声もあった。ある学生は「アメリカのバークレーの様子をテーマに英語でのプレゼンテーションを予定していました。ちょうどABLishで、バークレーでの公共政策でジェンダーニュートラルな表現での情報発信をしているニュースが配信され、とても役立ちました」と話す。

 松宮先生のゼミではその他、ABLishのニュースを題材に背景などをリサーチし、客観性を担保しながら意見をまとめるエッセイの提出を履修課題としている。意見が対立し正解の見えない問題が世界で山積している今だからこそ、一度思い込みを排除し、主体的な思考を学生に促していきたいと松宮先生は狙いを語る。

 「学生にとってABLishは、自分の学習の経歴を可視化するポートフォリオです。書き込みを加えた独自の単語リスト、エッセイの課題資料、メモしたディスカッションの内容などが保存された、いわばデジタル上のノート。これを提出すれば教員とも共有することができる。まさにICTによって実現できた教育環境です」(松宮先生)

 学習成果を高めている学生には、マネジメント力という共通項があると松宮先生は分析する。留学やTOEICの点数など実現したい目標に対して、進み度合いを冷静にチェックし、必要な学習を習慣化させていくこと。自身の英語力について成果を含めて管理するツールとしてもABLishは効果的だと見立てる。

時間やエネルギーは必要だが結果として面白い

 教える側にとっては、「柔軟性がある分、授業のデザイン力が相当問われる」と松宮先生は話す。「素材集であるABLishは授業の進め方を意識した教材研究がとても大切です。どんなテーマで題材となるニュースを選び、YouTube等の関連動画をアレンジすればよいのか。そこで学生に何を発問すれば、能動的に議論するのか。舞台演出のように授業を構築する力も求められます。研究にかける時間やエネルギーは必要ですが、伝統的な教科書ベースの進め方と比べ、結果として面白い」(松宮先生)。ABLishを用いる他の教員とも効果的な活用を日々、話し合っている。

 松宮先生は学生が音声や文字から英語に触れる絶対量を増やしたいとの思いから、正規科目とは別に「国際教養ジャーナル」と呼ぶエクセルベースの英文日誌を全学科生に配信している。学生から寄せられるコメントも当初は日本語だったものが英語の比率が高くなるなど、成果も感じられるようになってきた。

 そんな国際教養学科は、2022年度より新しく「国際学部」に変わる。ICTやアクティブラーニングの強みはそのままに、4年間のカリキュラムと海外留学が自在にリンクしたラーニングパスを松宮先生は想定する。学生が飛び出したいタイミングで海外に出て、そこでも日本の正課科目をオンラインで履修できる。「日本語を学ぶアジアの現地学生とネットワーク上でリアルタイムに学び合えるようなプラットフォームを恒常的に用意したい」と語る松宮先生。教室の中に多様性を持ち込み、相互啓発できる学びの場を広げていく構えだ。

取材協力:追手門学院大学国際教養学部国際教養学科 喜多村さん、 秋庭さん、 戎谷さん

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