―大阪府―
泉佐野市役所
関西国際空港を有する泉佐野市は、2017年に行われた「国際都市宣言」に基づいて、さらなる国際化を推進し、市役所職員を対象とした語学(英語)研修を新たな取り組みとしてスタートさせた。講師とのやりとりや課題の提出にSNSアプリを活用することで、時間に縛られない自発的な学習を促す研修の様子を取材した。
泉佐野市役所
〒598-0005
大阪府泉佐野市市場東
1丁目295−3
大阪市と和歌山市のほぼ中間に位置する人口約10万人の市。関西国際空港を有する玄関都市として、2017年、市民の国際理解、外国人や異文化への理解を進めることをめざす「国際都市宣言」を行った。
求められる行政の英語力
泉佐野市は関西国際空港を有する玄関都市として、2017年の「国際都市宣言」に基づき、「世界に羽ばたく国際都市 泉佐野」を2019年度の施政方針として掲げている。その一環として同年スタートさせたのが、市役所職員を対象とした英会話クラス形式による語学研修だ。
「旅行や観光だけでなく、泉佐野市内に定住する外国人の方が増えてきた今、市職員の英語力が原因で行政の市民サービスに不利益が生じてはいけない、という市長の思いが、職員語学研修の実現に至ったきっかけです。特に2018年、台風による大型タンカーの衝突で関西国際空港が閉鎖された際、空港に閉じ込められた多くの訪日外国人が対岸の地域、つまり泉佐野市内にバスで移送されたのですが、宿泊の手配などの対応がなかなかスムーズに行かず、多くの職員が言葉の壁を痛感しました」と、本研修を担当する人事課の木下隆氏は振り返る。
研修は、市民対応の窓口となる市民課など特定の課を対象に強制的に実施すると、語学を学ぶ楽しみが薄れて最後まで続かなくなってしまうことを懸念し、全庁で希望者を募った。受講者は想定を上回る9名で、その半数以上が年金課や生活福祉課など、市役所1階で市民対応を行う課の職員だという。
身近な社会問題を英語で考える
本語学研修では、講師を招いた授業は月1回、平日の夜に市役所内にて行われる。この授業の準備として、月例課題としてあげられたトピックについて自分の意見を100単語程度の英語にまとめ、その音声をLINEアプリを使って講師へ送ることとなっている(図1参照)。使用する教材は『ABLish』で、週3回、世界の最新ニュースを配信するクラウドサービスだ。行政の立場で主体的に物事を考えられるように、ABLish内の「訪日外国人」「ジェンダー」「歩きスマホ」などのトピックが課題として指定される。
その他、自主学習として、毎週指定されるABLish内のトピックに対し、受講者はスマートフォンやパソコンを用いて、課題をこなす。余裕があればその他のトピックを用いた毎日の学習も可能だ。「この研修では日々の自主学習に、より重きを置いています」と道井渉氏。「こんなに集中的に英語を勉強したのは大学受験の時以来」と受講者は口を揃えるが、その表情には自主的に学習していることへの充実感が感じられる。
話すことから英語は身に付く
取材に訪れたのは2回目の授業。まずは休日の過ごし方など簡単なやり取りのウォームアップから始め、英語を恥ずかしがらずに話す雰囲気をつくっていく。「難しく考えなくていい。知ってる簡単な単語をうまく組み合わせて、自分が言える範囲で言葉をつなげていけばいいんです」と樋口日向先生は、思わず口ごもってしまう受講者を優しく促す。
次に、月例課題への導入として、「どんな国の人が泉佐野市を訪れるだろうか」「泉佐野市に外国人が増えることで、どんなメリットや問題が起こりうるか」という質問が出された。受講者は答えを英語で考え、隣同士でディスカッションを行う。「外国人が増えることで市の税収が増える」などの意見も聞かれた。
ABLishで月例課題として出されていたのは、外国人労働者についてのトピックであり、行政職員としては避けて通れないテーマでもある。授業では、ペア同士での音読を行ったあと、各々スマートフォンで開いた該当ページに感想を英語で書き込む。受講者は事前にLINEで、1分程度のボイスメールとして自分の意見を講師へ送信済みだが、ここではそれを文章として入力し、さらに受講者はサイト上で他の受講者の感想も閲覧できる仕組みだ。他の誰か一人の感想に対して、その日のうちに自分のコメントを追記することが宿題として出され、この日の授業を終えた。
「ディスカッションを行い、自分から発話することで、英語は身についていくものです。その機会を与えてくれるのがABLishです」と樋口先生は話す。「彼らが公務員として仕事で直面するような問題を英語で読んで考え、実際に外国人とディスカッションができるようになればいいなと思っています。今回取り上げた移民や外国人労働者の問題についても、LINEを通じて受講生の皆さんから真剣で率直な意見が届いています」
次に取り上げるテーマは「スマホと社会」だという。行政が一丸となった泉佐野市の取り組みに今後も注目したい。