Case Studies

これからのスタンダードを見据えて

―三重県―
三重県立名張青峰高等学校

名張青峰高等学校では、全生徒に1台ずつタブレットPCを貸与し、普通教室・特別教室ともに充実したICT環境を日常的に活用している。そこには、情報活用能力育成やグローバル教育に対する先生方の熱い思いがあった。

三重県立名張青峰高等学校
三重県立名張青峰高等学校

三重県立名張青峰高等学校
〒518-0476
三重県名張市百合が丘東6番町1番地

名張桔梗丘高等学校と名張西高等学校が統合し、2016年4月に開校。普通科に属する2つのコース(文理探究コースと/未来創造コース)を設置し、幅広い進路希望の実現を図る。

開校当初からの「使命」

 名張青峰高等学校は、名張桔梗丘高等学校と名張西高等学校が統合されて2016年に開校した。統合にあたっては、学校関係者はもちろん地域住民も加わって、この地区の高等学校を活性化するための様々な意見が出された。「新しい時代の教育を、ここでモデルとしてやっていこう」。その目玉の1つとして打ち出されたのが、ICTを活用した教育活動だった。

 全ホームルーム教室に教員用PCと実物投影機・電子黒板機能つきプロジェクタを、複数の特別教室にも電子黒板機能つきプロジェクタを設置し、校内用無線LANを整備した。また、学習者用端末として、全生徒分のタブレットPCをそろえた。

 吉田淳校長は、開校からこれまでの約4年間を次のように振り返る。「教員たちは、ICTを活用した授業の経験がほとんどなかったので、1年目は環境整備や機器に慣れることで手一杯だったと思います。2年目になって、それを活用した授業づくりを本格的に考え始めました」

 同校では海外からの留学生を積極的に受け入れているが、その出会いも先生方にとって大きな刺激となっているという。あるとき留学生の生徒に自己紹介のプレゼンテーションを作るように指示をしたところ、Googleスライド TMを使ってあっという間に作り上げてしまった。「とても衝撃的でした。本校はICT環境に関して恵まれた環境ではありますが、海外から見たらあまりにも普通のことなのだと感じました。むしろ、もっともっと教育にICTを取り入れなければ、日本は海外に太刀打ちできなくなってしまう」(吉田校長)

ノートやペンと同じように

普通教室の授業風景にも「1人1台」が自然と溶け込む
普通教室の授業風景にも「1人1台」が自然と溶け込む

 生徒用のタブレットは、各個人ロッカーの上部に専用の収納スペースがあり、そこで充電もできるようになっている。持ち運びが容易で学校内のどこにいても使える端末が人数分ある一方で、従来のいわゆるPC教室でも授業が行われている。

 情報科を担当する向山明佳先生にお話を伺った。「1人1台タブレットPCの環境があればPC教室はいらないのではないか、と言われることがあります。ですが、私はPC教室も必要だと考えています。理由は2つあって、1つ目は、情報処理の検定試験など、統一されたプラットフォームが必要になる場面があるということ。2つ目は、クリエイティブな作業が必要なときは大きな画面や性能の高いCPUの方が便利だということです。普段の授業では最低限の機能で十分なことが多いので、手軽な物を使い、必要に応じて性能の高いPCを使う。その切り分けが必要です」

 授業で1人1台のタブレットPCを使うことは、初めのうちはそれだけで物珍しさがあるものの、日常的な活用を継続してきた同校の生徒たちはすでにノートやペンと同じように当たり前に使っているという。「教師からすると、ICTを使うからこそできる授業スタイルがあるし、授業のやり方の選択肢が増えると思っています。生徒たちにとってICTが当たり前の存在になったからこそ、生徒たちのやる気をより一層引き出すような授業を創意工夫していくのが我々教師の役目です」(向山先生)

 また、髙嶋真人教頭は〝授業のスピード感〟にも注目している。「私が直接授業をすることはほとんどありませんが、先生方の授業を見ていて、ICTを使った授業は場面の切り替わりが格段に早いなと思います」

 向山先生は普段からGoogle Classroom™️を使って課題の配布や回収を行っている。あらかじめ用意しておいた課題をクリックするだけであっというまに配布が終わるのだ。ICTを使わなければ、座席の列ごとにプリントの枚数を数えて後ろの席まで回して、という工程に数分間はかかってしまう。「授業の本質とは関係ない部分の時間を短縮できることによって、授業の密度が濃くなっていると思います」(向山先生)

 ICTがノートやペンと同じように日常に溶け込めば溶け込むほど、普段の授業のあり方が洗練されていくといえそうだ。

授業レポート 社会と情報(PC教室にて)

 授業の冒頭では「情報社会の法と個人の責任」の単元テストが実施された。課題の説明やタイムリミットの管理に「中間モニター」を活用することで、板書や資料配布などの待ち時間もなく、スムーズに指示が通る。効率よく授業時間が過ぎていくのが印象的だ。

 途中、イータイピングチャレンジを使ったタイピングの腕試しが5分間行われた。向山先生は「1学期の自分に負けてるようじゃダメだぞ」などと声をかける。名張青峰高校では情報活用能力の1つとしてタッチタイピングを重視し、中間テストにも取り入れているという。キーボードのホームポジションに指を置き、打ちやすいようにと指導している。授業時間中に練習することはほとんどないが、短時間で集中して一斉に行うなどゲームの要素を取り入れることで生徒たちのモチベーションはアップする。

中間モニターで課題の説明やタイマーを表示
中間モニターで課題の説明やタイマーを表示
Google Classroom上で単元テストを実施
Google Classroom上で単元テストを実施

 昨年度までは、タッチタイピングの評価のため、タイピングした物をプリントアウトし、目視で字数などをチェックするという方法で採点を行っていたが、イータイピングチャレンジ導入によって瞬時に集計ができるようになった。普段スマートフォンなどでフリック入力に慣れていることもあり、タッチタイピングよりもフリック入力の方がやりやすいと思っている生徒が多いが、イータイピングチャレンジのように、結果に応じてランキングやレベルアップなどのフィードバックがあれば、それがタッチタイピング練習のモチベーションにつながる。「しっかり練習すればフリック入力よりもタッチタイピングの方が絶対に速いので、将来、社会に出たときに『高校でやっておいてよかった』と思えるくらいには、上達してもらいたいと考えています」(向山先生)

1人1台の環境があってもPC教室は必要
1人1台の環境があってもPC教室は必要

 授業の後半には、これから1か月をかけて取り組む「サイト制作」の課題が説明された。手軽にウェブサイトを作ることのできるツール「Googleサイト TM」を使って、特定の職業に関するサイトを個人で制作するのだという。テーマとする職業は、「高校生がなりたい職業ベスト50」がランダムに割り振られ、「職業の説明」「いいところ、大変なところ」「なり方」を見やすくまとめること、「この職業のすごい人と普通の人」の違いを明確にすることが課題とされた。自分の興味のある職業についてはほかの教科の授業ですでに調べた経験があることや、プレゼンテーションの経験は十分重ねてきていることから、「自分ではなく他人が必要とする情報」「プレゼンテーションではなくウェブサイト制作」の課題となった形だ。最終的には学年の生徒280人分のサイトが完成し、お互いに見合うことになる。まさに、実践的・実用的な課題といえる。

 Googleサイトはクラウド上での作業になるので、こだわって作りたい生徒には自宅でも積極的に作業をするよう促す。

タッチタイピングのスコアに一喜一憂
タッチタイピングのスコアに一喜一憂

これからの社会に通用する情報活用能力を

 「『クラウド』で『共有』はキーワード」と話す吉田校長。髙嶋教頭と向山先生もそれには大きくうなずいた。「学習環境がシームレスであるのは大事なこと。学校の授業・通学時間の勉強・家庭学習と、全ての環境において同じことができるというのは生徒にとってすごくプラスになる」(髙嶋教頭)。「空いた時間、使いたいときに使うということですよね。共同作業にしても、『私は続きをバスの中でやる』とか、そういう使い方をどんどんしてほしい。生徒たちが社会に出たときにそれがスタンダードだと思うので、適応できるように今から慣れてほしいと思っています」(向山先生)

 地域住民の思いを受けて発足した「新しい」学校は、これからの時代を生き抜く力を育てたいという先生方の熱意によって着実に歩みを進めている。

課題の評価基準は明確に示される
課題の評価基準は明確に示される
サンプルのサイトを使ってGoogleサイトの操作を体験
サンプルのサイトを使ってGoogleサイトの操作を体験

*Googleスライド、Google Classroom、Googleサイト、Chromebookは、Google LLC の商標です。

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