Case Studies

英語教育で広がる未来 ~CALL教室を活用して~

―長野県―
長野県立大学

2018年4月に開学した長野県立大学では、グローバルな視野をもつ人材の育成を目指し、語学力や国際性を重視したカリキュラムを展開している。その特色ある英語教育についてお話を伺うとともに、『CaLabo EX』を導入したCALL教室での授業の様子を取材した。

長野県立大学
長野県立大学

長野県立大学
〒380-8525
長野県長野市三輪8-49-7

2018(平成30)年4月開学。グローバルマネジメント学部・健康発達学部を有す。全学生に英語の集中授業と短期の海外プログラムを課すなど、グローバルな視野をもつリーダーの育成を目指している。

英語4技能を高める全学必修の英語集中プログラム
English Program for Global Mobility

 長野県立大学では1・2年次に全学共通で「英語集中プログラム」が必修となっている。「読む」「聞く」「話す」「書く」の4技能融合型のプログラムで、1・2年次には週4回(健康発達学部2年次2学期以降は週2回)という頻度で授業を行い、英語運用・コミュニケーション能力を養成する。英語集中プログラムを担当する加藤貴之先生は次のように話す。「大学に入学してすぐに、英語の学習が大きくステップアップするような仕組みにしたいと思っています。様々な手法を柔軟に取り入れ、特色ある授業をつくっていきたいと考えています」

 英語集中プログラムは、各学科の専門領域との結びつきを重視しているのも特長だ。「Career English for Global Mobility I・II」は、グローバルマネジメント学科・食健康学科・こども学科の各学科との連携を意識してそれぞれの授業内容が編成されている。各学科の学修内容や、卒業後それぞれの分野で仕事をすることを念頭におき、それらと英語を密接にからめた授業内容を展開する。「2年次で全員が参加することになっている海外研修が英語学習のモチベーションにつながっていると思います。本学の海外研修はいわゆる語学研修とは異なり、例えばグローバルマネジメント学科であればビジネス英語の研修に加えて企業視察や事例検討、食健康学科であれば病院や福祉施設の視察というふうに、各学科の専門教育として位置づけられています。これから本格化する自分の専門分野に対してより深い関心をもったり、視野を広げたりすることが主な目的となっています。その中で、使用する言語はもちろん英語がメインとなりますので、英語プログラムで私たちがアシストするという考え方で授業を計画しています」

※1 こども学科では3学期 ※2 グローバルマネジメント学部の場合。健康発達学部ではCareer English for Global Mobility I・IIとなる。
※1 こども学科では3学期
※2 グローバルマネジメント学部の場合。健康発達学部ではCareer English for Global Mobility I・IIとなる。

CALL教室で実現する「ディベート」の授業

 4技能融合型の「英語集中プログラム」の授業は、内容も手法も様々だ。その中で、今回はICTを活用した授業、特に学内に3つあるCALL教室を使った授業についてお話を伺った。「活動に合わせてスポットで機能を使うケースもあるのですが、CALLシステムの出番が特に多いのは英語ディベートの授業ですね。私は『Comprehensive English II』の授業で英語ディベートを取り入れました。ディベートには肯定・否定・ジャッジという3つの立場が必要です。ジャッジの役割を学生が担う場合、最初のうちは勝敗に至るロジックを英語で説明することはなかなかできません。そのため、ディベートの醍醐味を味わうなら、学生がジャッジとして勝敗とその理由をコメントした上で同じ試合の教師ジャッジのフィードバックと比較する機会が重要になります。

長野県立大学

また、もちろんディベーターとして肯定側と否定側の双方の立場を数多く経験することも必要です。これをふまえると、短い授業期間でビギナー対象の英語ディベートを導入するには大きな課題があります。まず、全体で1試合だけを行う場合、肯定側と否定側以外の学生は全員がジャッジとして聞くこととなり、教師のフィードバックを参考にすることはできても、ディベーターの立場を経験する回数が少なくなってしまいます。一方、同時進行で複数の試合を行う場合、慣れないうちは進行が遅れるグループが生じたり、教師ジャッジがいないグループでは試合後のフィードバックが初心者ジャッジによるものだけになるため緊張感を作り出せなかったりします。そこでCALL教室の『CaLabo EX』が活躍します。「グループワーク」の機能を使って、肯定・否定・ジャッジを含むグループを同時に行う試合数だけ作り、試合の進行は、教師が全体に向けてヘッドセットで呼びかけ、センターモニターでスピーチの残り時間を表示します。さらに学生にとって、試合中のスピーチ・録音されたスピーチともに教師に聞かれるという前提があるので、いい緊張感につながります。展開もスムーズですし、席を移動することなく次の試合が始められます。このように教室全体において、複数のディベートの試合を教師が把握しながら進行でき、かつ授業後に録音された音声をもとに全ての試合に対してコメントをフィードバックできるのは、CALL教室ならではだと思います」

授業レポート@CALL教室
こども学科2年次
「Career English for Global Mobility I」

授業レポート@CALL教室

 この日、取材させていただいたのは、CALL教室で行われていたこども学科2年次の「Career English for Global Mobility I」の授業だ。主に幼稚園教諭や保育士を目指す同学科の学生たちは、2か月後にフィンランドでの海外研修を控えており、保育士養成施設を訪問したり幼児教育に関するレクチャーを受けたりする予定だ。

 授業は昔話『桃太郎』の音読から始まった。それぞれがヘッドセットを装着し、英語版『桃太郎』の音声を吹き込んでいく。「これは毎回の授業でウォーミングアップとして行っているもので、主な目的は英語特有の音変化に慣れさせることです。弱化や消失など、音変化はリスニングで非常に苦手となる部分です。モデルの音声を繰り返し聞いて、あえて音の変化をまねて音読をすることでリスニング力の強化につながります。授業も後半になってきたので、暗唱に挑戦させている段階です。テキストに『桃太郎』を選んだのは、こども学科の学生たちにとって『昔話を英語で話せるようになる』ということがモチベーションにつながるからです。幼児教育に携わっていく中で、子どもを対象とした様々な英語活動をストックしておくことは有用ですよね。英語で歌える歌のレパートリーも増やしてほしいので、10曲覚えることを目標に『歌唱』のテストも一人ずつ行っています。伴奏をしながら歌うということには慣れている学生たちですので、楽しそうに取り組んでいますよ」

 この日の授業のメインは、英語で書かれた幼児教育の入門書の読解だ。読解といっても、きれいに整った日本語訳を書くわけではない。原文をパートに分けて3人グループの中で担当を決め、自分の担当パートについて「日本語での解説」を作ってグループ間で見せ合うという活動だ。『CaLabo LX』のグループワーク機能を使って作業の途中経過もグループ間で共有させることで、学生からの質問などが活発になるという。

 加藤先生はこの活動について次のように話す。「目指してほしいのは、幼児教育に関する知識を応用しながら文脈を読み取り、人にわかりやすく説明ができることです。単なる直訳ではなく、専攻分野の解説という形でアウトプットできるようになることが目標です。それも、教員だけに提出する形ではなく学生同士で見せ合う形にすることで、活動に対する関心度が高まりますね」

 また、この担当パートについて「1分間で音読する」という課題も出された。「1つのパートは120~150ワードにしています。これは学生たちには1分間で読めるはずの長さです。最初に私がこれを40秒で読めるというのを手本として示しています。ある時点での学習成果として、1分間で読めることを確認する。または読めないことを知る。自分が英語でできることを客観的に意識する機会をつくるよう心がけています」と加藤先生。1分間という最低限のラインと、40秒間という手本を示すことで、学生たちは具体的な目標をもって課題に取り組むことができる。

授業レポート@CALL教室

 こども学科の「Career English」の授業では、この他にも実際の保育・幼児教育の現場や実社会に即した様々な課題が示されるという。「例えば『保護者へのお知らせ』の課題。実際に日本の幼稚園や保育園が保護者向けに発信しているお知らせを英訳してみようというところから始まります。翻訳ソフトでもそれなりの英訳はできますが、受け手として海外から来た保護者を想定すると、直訳では不十分なことが多々あります。そのような具体的な想定から、どんな説明を補足すれば正確に伝わるのか考えさせます」と加藤先生。

 「自分たちが社会に出たときに英語を活かしてどんなことができるのか、具体的なイメージをもつことで高いモチベーションを維持することができます。他にも、海外の幼稚園の求人に応募する書類のカバーレターを作成したり、幼稚園の季節のイベントを想定して海外から来た同僚へのメールを作成したり。保育や幼児教育の現場の場面を想定することに関しては私よりも学生たちの方が得意ですからね。私には思いつかないようなアイデアが学生たちから出てくることもあります」

 加藤先生の授業では、学生への指示に英語と日本語の両方が使われる。これにはどのような意図があるのだろうか。「パターン化している指示や何度も出てきているフレーズは基本的に英語で話すようにしています。ただ、ICTを使った授業ではどうしても、操作がわからないとかうまく動かないといったことが出てきます。私の場合、そういうときは本来の授業を進めることを優先して、日本語を使って説明をしますね。確実に連絡を行き渡らせたいときも日本語です。そして、何度か日本語で説明した内容は、英語に変えることにしています。こども学科の学生たちに関していえば、将来、保育や幼児教育の現場でいろいろな国の人の橋渡しができるような存在になってほしい。授業の中でも、英語にこだわりすぎない柔軟なコミュニケーションがあってもいいと思っています」

 使う言語もICT機器を使うタイミングも臨機応変に。目指すものが明確であるからこそ、手法にこだわらない新しい形の授業が今後も生まれていきそうだ。

授業レポート@CALL教室
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