『大学教育改革』を支える学修環境
―東京都―
工学院大学 新宿キャンパス
2017年9月、工学院大学の新宿キャンパスに『CaLabo LX』を導入した新しいアクティブ・ラーニング講義室が誕生した。フリーレイアウトを取り入れ、従来の授業からグループワークまでに対応できるほか、『CaLabo Bridge』による座席出席管理機能も特徴だ。導入のきっかけやこれからの本格運用に向けてのお話を、情報科学研究教育センターの方々に伺った。
工学院大学 新宿キャンパス
〒163-8677 新宿区西新宿1-24-2
TEL 03-3342-1211
建学の精神である「社会・産業と最先端の学問を幅広くつなぐ『工』の精神」のもとに、1887年に創立。新宿と八王子の2つのキャンパスに、工学を基盤とする4学部15学科を有する。都心型高層キャンパスの先駆けとなった新宿キャンパスでは、「ラーニングコモンズ」をはじめとした開かれた学習空間の場づくりに努めている。
グループワークに活用できるAL講義室が誕生
新宿駅から徒歩5分の好立地にある工学院大学新宿キャンパスは、地下6階地上28階の、東京都庁を臨むことができる高層ビルだ。このビルの14階と16階に、アクティブ・ラーニング(AL)講義室が新たに設置され、2017年9月から稼働をスタートした。
工学院大学の情報科学研究教育センターの歴史は古い。今から50年以上前の1967年に「電子計算機センター」として設立され、運用が開始された。その後、新宿と八王子の2つのキャンパスをつなぐ学内ネットワークの構築や、教育・研究のための情報処理設備の管理・運営を担ってきた。
2017年夏に学内の教育・研究システムを更新。2010年度から仮想デスクトップ基盤(VDI)環境を利用者に提供していたが、物理端末のデスクトップに近い性能を提供するため、仮想グラフィック処理装置(vGPU)+オールフラッシュストレージを用いた最新のVDI環境を導入した。加えて、新宿キャンパスに新たなアクティブ・ラーニングの場を誕生させたのだ。
「AL講義室では固定席を廃止し、椅子や机などを自由に配置できるようにしました。従来通りの授業だけでなく、席を組み替えてのグループワークをはじめとしたさまざまなスタイルの授業を展開することを目的としています。大学の一般教室というと長机のイメージがありますが、今後はこうしたアクティブ・ラーニング型の教室になっていくと思います。その先駆けのモデルとして、まずは新宿キャンパスにAL講義室を作り、ソフトもハードもフルスペックのものを用意しました」
そう話すのは情報科学研究教育センター所長を務める、馬場健一教授だ。導入にあたっては、2つの大きな課題があったという。
「もともと、教員が固定席にあるFAT端末の学生の利用状況を把握できる環境は、他社のソフトで実現していました。今回、可動席でノートPCを使用するAL講義室を新設するにあたり、教員がグループワーク形式とレクチャー形式のどちらでも、学生の利用状況を把握できるようにするという課題がありました。もう一つの課題が、これまで利用していた中間モニターを廃止し、ソフト側で教員の画面を学生の端末へ配信できるようにすることでした」
情報科学研究教育センターの運用を行う情報システム部課長の小野垣仁氏によると、これらの課題に対応できるシステムとして、『CaLabo LX』が当初から候補に挙がっていたという。AL講義室では、貸し出し用または持ち込みのノートPCの利用だけでなく、VDI環境にも対応していることが、『CaLabo LX』導入の大きな決め手となった。
デモ環境構築にあたってはアドバイスを活用
AL講義室を稼働させるためには、まず新宿キャンパスの環境で、導入のためのデモ環境を構築するところから始まった。その際、役に立ったのが、こうした案件を多く扱っているチエルからのアドバイスだったと、情報システム部課長の名取勝敏氏は語る。
「『CaLabo LX』のテストにおいて、教員画面を学生端末に配信するためのデモ環境構築の協力だけでなく、導入に必要な各種のパラメータ設定の提示や提案があったため、スムーズに導入の作業ができました」
事前に学生端末への動画配信などもテスト環境で試し、実用化のめどが立ったところで、2017年9月の稼働をめざし導入を進めていった。
VDI環境によって専門ソフトも自由に利用できる
こうしてリニューアルした新宿キャンパスの14階には、AL講義室のほか、AL自習室、貸し出し用ノートPCのロッカーなどが新設された。AL講義室には、大判カラープリンターや、タッチディスプレイや各グループで使用できるモバイルプロジェクターが複数台あり、レイアウトに合わせて電源供給が行えるよう、電源タップの位置なども工夫されている。
また、大型のカラープリンターや複合機、イメージスキャナーなどを備えた、自由に使えるカフェテリア室も用意されており、研究や学習のため毎日大勢の学生が利用している。ノートPC貸し出しの専用ロッカーでは、学生がロッカーにICカードの学生証をかざすと自動で扉が開き、使いたい時間だけノートPCを利用できるシステムになっている。
「貸し出し用のノートPCには、ソフトはMicrosoft Officeぐらいしか入っていませんが、VDIに接続すれば、授業や研究で使用しているCADをはじめとした専門的なソフトが利用できるようになっています。そのため、学生にはなかなか購入しづらい高額なソフトも、VDI環境に対応したことで、自由に利用できるようになりました」と馬場教授は話す。
BYOD環境でも学生の出席確認が容易に
教室をフリーレイアウトにした際、管理側として悩ましいのが、学生の出席確認だ。従来のPCルームのような固定PC環境であれば、座席表で出席管理は比較的簡単であったが、AL講義室のようなフリーレイアウトの教室の場合、持ち込んだPCを学生がどの座席を利用しているかが把握できないという問題があった。
そこで、AL講義室では『CaLabo Bridge』の「座席表出席管理機能」を活用している。学生が自分のPC画面に表示された座席表から着席した位置を選択すると、教員側のコントローラへ表示され、座席位置の把握と同時に出席もリアルタイムで確認ができるようになった。今後増えていくであろうBYOD環境において、こうした機能は非常に重要だ。
また、『CaLabo LX』と連携した『CaLabo Bridge』では、教員から学生の端末へ、資料などのファイルを配布する機能も備えている。
「たとえば、時間内にレポートを書き上げるといった授業において、持ち込みPCで執筆する場合は、紙とペンで書く場合より、教員が学生の画面などを随時確認する必要があります。『CaLabo LX』であれば、教員のモニターで学生一人ひとりの進捗状況を確認することができます」と小野垣氏は話す。
2018年度よりアクティブ・ラーニングを拡大
2017年9月以降、AL講義室を活用した授業が試行され、現在、2018年度以降、さらなる利用拡大に向けて、教学部門と共に検討がされている。馬場教授はAL講義室の活用方法について、「活用シーンはいくつもありますが、たとえば、計算の多い演習などでグループを作って、学生同士が相談して行う学習などにも適しています。そのほかにも、グループワークの授業で最後にプレゼンを行う際、学生がお互いのPC画面を見せて協働で学習するといった活用も、今後は増えていくと思います」と語る。
また、小野垣氏も「教員の学生端末の状況把握に加え、『CaLabo LX』では従来のような中間モニターがなくても、教員画面を学生端末に配信できるようになりました。AL講義室ではノートPCからVDIを利用する場合でも、教員が学生端末の状況を常に把握ができるようになったため、さらなる発展が期待できます」と、AL講義室への期待感を話した。
アクティブ・ラーニングを追求する工学院大学の挑戦
取材を行った当日、新宿キャンパス14階AL講義室の横にあるカフェテリア室(写真右下)では、シンクライアント端末からVDIで自習している学生、大判プリンタで大きな図面を印刷する学生などで午前中から賑わっていた。また、地下には2015年3月にオープンした、建築学部が設計・デザインを手掛けたコミュニケーション空間『ラーニングコモンズB-ICHI』があり、こちらでもノートPCで勉強する学生の姿が目立った。
情報システム部の高橋佳大氏は、「以前、学生向けに行ったアンケートによると、個人でパソコンを持ってはいるものの、教科書が増えていくにつれて荷物が重くなり、持ち歩く学生は減っているようです」と話す。そういった背景から、14階の貸し出し用ノートPCの需要は高く、特に試験前などはカフェテリア室で多くの学生が利用しているという。
工学院大学では、工学系分野に特化した大学の先鋭として、常に最新の技術を追求し続け、教育にも積極的に取り入れてきた。講義だけでなく、実験や実習、演習などにおいては、アクティブ・ラーニングを重視した教育活動を早くから実施している。そうした下地があるなかで、AL講義室が新たに加わったことは、これからの授業や研究にも大きな変化をもたらすことが期待される。
工学院大学の技術部門を担う情報科学研究教育センターでは、新宿キャンパスでのAL講義室を一つのモデルとして、今後どのように講義や協働学習に取り入れていくのか、これからも活用方法を検討していきたいとしている。