Case Studies

英語プレゼンテーション能力の向上に注力し、将来、グローバルに活躍できる人材を育成する

―東京都―
大妻多摩中学高等学校

2008年の開学100周年を機に三つのCALL教室を備えたラボラトリー棟が完成して以来、電子黒板やタブレットといったICT機器の導入を進め、ICTを活用した「受験英語を超える総合的、実践的な英語教育」を推進する大妻多摩中学高等学校。『CaLabo EX』の活用状況について、英語科主任の伊藤正彦先生にお話を伺った。



大妻多摩中学高等学校
〒206-8540 東京都多摩市唐木田2-7-1
TEL 042-372-9113

1908年に東京都千代田区に開設された私塾を起源とし、1988年に高等学校、1994年に中学校が設立された大妻多摩中学高等学校。「21世紀、国際化と女性の社会進出が進む時代に活躍する高い知性と品位を備えた女性の育成」を教育目標に、国際教育プログラムの拡充を進めている。

http://www.otsuma-tama.ed.jp/

入念に授業プランを練り、無駄な時間が一切ない50分間に

伊藤先生は、クラス全体向けにはテンポよく授業を進めつつ、机間巡視をしながら個々の生徒に寄り添うことも忘れない。

 「聞かせる、考えさせる、言わせる」。『CaLabo EX』を使った伊藤正彦先生の授業は、50分間ノンストップで繰り広げられる。「生徒一人ひとりが主役ですので、全員を上手に引っ張っていく必要があります。ウォーミングアップから勢いをつけ、そのままアクティブに授業を進めていきます。途中で、とっさに生徒を指名して回答させるなど、〝まったり・ぐったり”させません」と伊藤先生は笑顔で話す。

 さらに、「ICTの活用によって生徒の理解を深められる部分があるのは確かですが、結局は教員の意識次第です。ICTは、授業内容のプランニングが不十分な教員をサポートするためのツールではありません」と伊藤先生。「年次によって授業スピードやリズムを考えるべきでしょう」と話すように、中学生に対しては5分から10分程度の短いテンポで次々と課題を与える一方で、集中力が高く、基礎的な英語力が身についたことでじっくりと考えられるようになった高校生に対しては、20分前後の長い時間をかけて課題に取り組ませる。そしてその間、足を止めることもなく、机間巡視を行っていた。

高校3年次の到達目標に向けて、中学1年次から段階的に学習

 伊藤先生が教鞭を振るう大妻多摩中学高校は、6年一貫教育。高校3年次に、環境問題をはじめとしたグローバルな課題についてグループワークを行い、英語でプレゼンテーションを行うことを大目標として設定し、そのために中学1年次から取り組むべき内容を設計しているという。

 中学1年生のリスニングの授業では、先生に続いて生徒が発音練習を行った後、ペアを組んで再び練習。その後、指名されたペアが起立して披露する。先生が気をつけているのは、アクティブに発話させること。先生自身も声を出して手本を見せる。「重視しているのは、4技能を〝PLAY OUT”させることです。正しい発音で話してほしいので、音に敏感になってもらいながら、二つの単語をつなげて一つの単語として発音するリンキングの練習も大切にしています」と伊藤先生は話す。

 また、「中学1年生のクラスではゲーム的要素を取り入れることも大切です」と語るとおり、教室には笑い声が絶えない。楽しみながら話す機会を多く設けることで、生徒のパフォーマンス力が向上するとともに、話すという行為への心理的ハードルが低くなり、話す内容への意識・注意力を高める余裕が生まれるのだという。

 その後、高校生になると、興味を持った世界遺産について生徒自ら調べ、環境保護と観光・集客を両立させる重要性なども考慮して発表する授業も用意されている。発表風景は録画し、セルフアセスメントとして生徒自身がVTRを見て振り返り、上達に向けた課題の認識につなげていく。

 そのほかにも、「モノは語る」をテーマに、身の回りのモノを擬人化し、何を語っているかを考える課題や、女性の社会進出と少子高齢化の関係、校外でのフィールドワークにおけるインタビューの結果などについて、プレゼンテーションを行う課題など、英語を使った多彩なアプローチで、生徒の考える力と英語力を伸ばす教育が展開されている。

 そして、中・高6年間の集大成となるのが、同校の所在地である唐木田にちなみ、「唐木アイランド」と銘打った架空の島における、グループワークでの開発構想プレゼンテーションだ。この島の開発を進めるにあたり、まずは企業理念や企業ロゴを想定。さらに、他の科目や日々の新聞やニュースで知った実際の社会問題を参考にして雇用問題や環境問題を設定。その解決策も含めた開発プランをスライドにまとめ、英語でプレゼンテーションを行う。

 文化祭や入試説明会で進学希望者の保護者向けに披露することもあり、そうした実践の場でのプレゼンテーションこそ、グローバル人材育成の第一歩と言えよう。

CALL2教室は、可動式デスクでアクティブ・ラーニングにも対応するほか、オープンスペースとして英語劇の練習などにも使われている。壁には生徒の学びの成果が掲示されている。

プレゼンテーション力を高め、国際競争力を持った人材を育成

 伊藤先生は英語プレゼンテーション能力の向上に注力する。まず重点を置くのは、イントロダクションからボディ、そしてコンクルージョンという英語のストラクチャーを雛形として体得させることだ。「そこに生徒自らが行ったアンケートの結果や、さまざまなデータをエビデンスとして添えることで、客観的に論じる力が高まっていくのです」と語る。

 一方で、忘れてならないのが大学入試対策だ。伊藤先生のクラスでは、「ムービーテレコ」を用いて5分以上のリスニングの過去問にも挑戦しており、その際の教材として採用しているのは、『TED Talks』。読み物教材を通して、環境問題などのグローバルな時事問題の基礎知識を与えることで、リスニング力を高められるという。

 伊藤先生が現在の指導スタイルにたどり着く転機となったのは、2006年から国内の大学院で英語教授法を学び直し、その後2010年にオーストラリア留学を経験したことだという。「オーストラリアでは、学生自らがスライドを作成して発表するスタイルの授業の浸透度の高さと、それを行う海外生のプレゼンテーション能力の高さに驚きました。その時、日本人の国際競争力に対する危機感が芽生え、グローバルに活躍できる人材を育てるためにも、帰国後に何をすべきかを考えました」と伊藤先生は振り返る。

 「近い将来、生徒たちを海外のプレゼンテーション大会に出場させたいと考えています。そのときは、打倒スーパーグローバルハイスクールですね」と笑う伊藤先生の表情からは、どこか自信に満ちている印象すら感じられた。

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