Case Studies

「参加型授業」の実現に効果的なツールです

2011/03/16

高大
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 明治大学では、2010年3月に180台のクリッカーを試験的に導入し、和泉キャンパスの和泉メディア支援事務室が中心となって、職員の研修、高校生向けのオープンキャンパス、FD研修会など学内での周知・広報活動を進めてきた。その結果、いくつもの授業でクリッカーが活用されるようになった。今回は国際日本学部の鈴木賢志准教授の授業を拝見し、お話をうかがった。

クリッカーを使って学生の意見を引き出す

 取材させていただいたのは、国際日本学部の学部科目『日本社会システム論』の授業のようす。諸外国と比較しながら日本の社会や経済のシステムを読み解くという趣旨の講義だが、時事的なトピックスや最新の海外事情なども扱うダイナミックな授業として、人気科目のひとつとなっている。
 鈴木先生の授業は、パワーポイントであらかじめ作成したレジュメをもとに進められる。授業が行われている和泉キャンパスのメディア棟は、最新の設備が整う快適な空間。大教室には、前方の大きなスクリーンに加えて数台のディスプレイが設置され、後ろの席の学生も十分に見ることができる。

 授業開始直前、学生たちは今回のレジュメとコメント・質問カード、さらにクリッカーの「無線リモコンCricket」を手にし、思いおもいの席に着く。鈴木先生は毎回、授業の最初に時事的な問題について触れる時間を設けている。今回の話題は、緊迫状態にある東アジアの情勢について。尖閣諸島沖で発生した漁船衝突問題や北朝鮮による韓国砲撃問題、ロシアとの北方領土問題、さらには日米安保条約の諸問題にまで話は波及する。
 ここで鈴木先生は、アメリカ軍基地問題について学生に意見を問うため、クリッカーを使って集約を図った。A~Dの4つの選択肢から、自分が最善だと思う項目を選ぶという質問だ。学生が手元のリモコンを操作して答えると、即座に全体の結果が棒グラフになってディスプレイに表示された。グラフ化されることでひと目で結果がわかり、全体の傾向や自分の位置、他人の意見などもビジュアル的に認識できるのだ。
 続いて、「国のために戦えるか」という質問に対して何割の日本人が「はい」と答えたかを選ぶ4択問題が出された。正解があるクイズ形式の問題の場合は、正答の選択肢に色がつく仕組みになっている。多くの学生は予想が外れ、意外な結果に少し驚いたようす。さらに、日本は他国に比べて「国のために戦いたい」と答える率が極端に低いという事実を知り、学生は複雑な表情を浮かべていた。

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(写真左)大きなディスプレイに質問が映し出され、学生たちは一斉にクリッカーを使って答える。
(写真右)解答結果は即時に集計され、グラフ化される。

一方通行になりがちな講義が双方向の参加型に変わる

 今回の授業では、このような導入部分での使用のほか、授業の最後にもクリッカーを使ったクイズ形式の質問が取り入れられていた。明治大学の教員の中でもとくにクリッカーを多用しているという鈴木先生に、お話をうかがった。
 「このような大人数の講義の場合はとくに、教員から学生へという一方通行の授業になりがちです。いくら学生に意見を聞いても、手を挙げて発言するのはほんの一部にすぎません。しかし、手を挙げない学生も、『自ら手を上げて発言する』ということに抵抗があるだけで、実は何かしらの意見を持っているはずなんです。そんな声を引き出すツールが、このクリッカーだと思っています」
 前期の授業で導入してみたところ、期末の授業評価で「クリッカーを使った授業は楽しかった」「他の人の意見がわかって興味深かった」という声がとても多く、後期でも授業のアクセントづけに使用しているという。
 「クリッカーを使って自分の意見を表すことで、講義をただ聞くのではなく参加するという感覚が生まれると思います。この感覚こそが、大教室で行う講義の課題である「一方通行性」をインタラクティブ(双方向)にするのではないでしょうか」と鈴木先生は語る。

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聴衆の考えや理解度をその場で確認できる

 クリッカーを使った意見の集約や解答式の問題について、鈴木先生は話者側のメリットをこう語る。「その場で聴衆の考えや感想を聞くことができるので、話者は聴衆に合わせた話ができると思います。例えば、こちらが想定していなかった部分に関心が強かったり、予想外の部分が理解できていなかったり、それがわかれば話す側も臨機応変に対応することができますよね。講演が終わってからの感想コメントでは、その場でフィードバックすることはできませんから」
 最後に鈴木先生はこう語ってくれた。
 「私は、わかりやすいものを提供する『サービス』が教員の仕事のひとつだと思っています。学生が自ら意見を発しない現状を憂う声もありますが、学生の声を拾うためのツールとして我われがクリッカーを使うことも、サービス向上の一環だと思うのです。今後は、クリッカーの機能をもっと理解して、さらに活用していきたいと考えています」
 クリッカーの活用方法は未知数だ。鈴木先生の取り組みが先例となり、明治大学内でさらに頻繁に、かつ様々な方法で利用されるよう期待したい。

授業以外のさまざまなシチュエーションで活用

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情報メディア部 和泉メディア支援事務室 荒川 美樹子

 明治大学のクリッカー導入経緯やこれまでの活用事例について、情報メディア部・和泉メディア支援事務室の荒川美樹子さんにお話をうかがった。
 「文部科学省の中央教育審議会の答申がきっかけとなり、クリッカーが本校の担当者の目に留まったんです。いくつかの会社の製品を比較検討したのですが、教室間の混信がないこの製品を導入することになりました」
 現在は180台のクリッカーが和泉キャンパスに試験的に導入されているが、駿河台キャンパスや生田キャンパスで使用することもあるという。利用状況をうかがうと、「やはり、パソコンに疎い方には浸透しにくいのは事実ですが、少しでも教職員の方に知ってもらうために、PRポスターを掲示したり、FD(※)・教育評価専門部会や新入職員研修で紹介したり、学内で広報活動をしています。職場懇親会のクイズ大会でも使用したんですよ(笑)」
 授業での活用のほか、高校生向けのオープンキャンパスでクイズを行う際に使用したり、新任教員研修会や図書館職員による図書館のガイダンスでも使用しているという。「参加した学生からは、『楽しみながら説明を聞くことができた』という声が多かったですね。とくに高校生は珍しがって興味津々のようすでした」(荒川さん)
 今後は、個々のリモコンを個体識別できる(クリッカーは、誰がどのリモコンを操作しているかわかるよう登録できる)ようにした際の活用方法も提案し、さらに活用の場を広げていきたいという。

※FD(ファカルティ・ディベロップメント):
大学教員の職能開発。大学改革の一環として、教員が授業内容・方法を改善し、向上させるための組織的な取組み方法を指す。

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