Case Studies

教員向け講習会や常駐サポートで授業支援ツールの利用促進

―東京都―
上智大学

上智大学では、授業の円滑な進行を支援するLMS(学習管理システム)として『Moodle(ムードル)』を活用している。2004年に試験導入して以降、教員の間に浸透し、新型コロナウイルス禍には利用率がほぼ100%になったという。評価の要因や運用体制について情報システム室に話を聞いた。

教員向け講習会や常駐サポートで授業支援ツールの利用促進
上智大学

上智大学
東京都千代田区紀尾井町7−1
イエズス会のキリスト教ヒューマニズムを学びのルーツとし、日本初のカトリック大学として1913年に誕生した。世界に貢献する人を育む「叡智の学府」を目指し、隣人性と国際性に裏打ちされた教育研究活動を推進している。

授業を支援するLMS
コロナ禍は利用率ほぼ100%

 開学以来1世紀を超える歴史を有する上智大学は、9学部29学科、10研究科26専攻を擁し、文学、人間科学、社会科学、自然科学、工学など幅広い分野を探求する総合大学だ。「自分の才能や学びの成果を他者のために役立てることが、人間としての成長につながる」との考え方のもと、国や言語、学問の境界を超え、キリスト教ヒューマニズムに基づく教育を展開してきた。

 日常の授業では、LMSとして『Moodle』を利用している。教員は講義資料などを『Moodle』上に掲載して学生に課題を与えたり、提出されたレポートに評価をつけたりと対面・オンライン授業を支援する機能が揃う。

 『Moodle』導入のきっかけについて、上智大学 学術情報局 情報システム室 事務長の青砥光一氏は、「2004年に試験導入し、2006年から本格的に稼働がスタートしました。2013年頃にはすでに利用率は高まっていましたが、オンライン授業が中心になったコロナ禍にはほぼ100%になりました」と振り返る。上智大学には、教員約1500名、学生約1万4000名が在籍している。2019年頃までは、『Moodle』の延べログイン数が年間5000人程度だったが、2023年春学期には、教員のユニークログイン数が約1400に上り、2500程度のコースが作成されたという。

剽窃チェックのプラグインなど
拡張性の高さが特徴

 上智大学では、普段の講義や学生への指導で『Moodle』をどのように活用しているのか。多くの教員が使っているのが、『Moodle』上で課題を掲示し、レポートを収集する機能だ。同大学では、課題の掲示・提出には『Moodle』を使うよう周知しているという。メールの場合、教員・学生間で「送った・受け取っていない」といった問題が発生する恐れがあるが、『Moodle』ならば何時何分に提出されたかが一目瞭然だからだ。

 ほかにも、選択問題や記述問題などさまざまな形式のテストを実施できる「小テスト」機能や、学生間でディスカッションできる掲示板機能の「フォーラム」も利用されている。

 オープンソースソフトウェアである『Moodle』は、各学校の課題やニーズに合わせてカスタマイズできる拡張性の高さも大きな特徴だ。機能強化などが可能になる「プラグイン」によって、追加機能を装備することができる。上智大学では、剽窃(盗用)チェックサービスの「Turnitin(ターンイットイン)」や、録画した講義動画を視聴できるプラグインを導入している。「プラグインの追加に関しては、情報システム室で実情に応じ導入するほか、実際に授業を行う先生方から話が持ち上がり、情報システム室で検討の上、導入することもあります。『Moodle』は、機能やプラグインに関する情報がインターネット上に多く、参考にしやすいと感じます」(上智大学 学術情報局 情報システム室 主幹 松田浩司氏)。

 上智大学では、『Moodle』の利用を原則授業のみとしているが、一部の卒業論文の受付や新入生オリエンテーションのためのオンライン講座、留学生からの書類受付など大学運営の事務業務にも利用範囲が広がっている。

週5日・2名体制のサポートで教員・学生の疑問を解消

『Moodle』で作成したコースのイメージ。
『Moodle』で作成したコースのイメージ。

 『Moodle』はオープンソースソフトウェアのため無料で導入できる一方、適切に運用・管理するには一定の知識や学内体制が求められる。上智大学では、『Moodle』の構築や保守の一部を、チエルのグループ会社であるチエルコミュニケーションブリッジ(CCB)に委託している。CCBがシステム管理・保守、チエルが教員・学生へのサポートと、グループ一体となって情報システム室の業務を支援している。語学4技能学習支援システムの『CaLabo®MX』やPC教室授業支援システムである『CaLabo®LX』などを現地で支援する「授業サポートサービス」のメンバーが、週5日・2名体制で大学内の教材準備室に常駐。情報システム室宛ての『Moodle』に関するメール問い合わせにも対応している。さらに、電話や対面でも教員・学生の相談に応える。「前年度に使っていたコースを再利用したい」「試験で『Moodle』を使うにはどうすれば良いか」「学生が提出したものを相互評価させたい」「クラスをグループに分け、グループ内で課題に取り組ませたい」といった声が寄せられ、より良い授業に向けて『Moodle』で実現できることはないかを模索する。

 加えて、『Moodle』の利用を推進する目的で、以前から教員向け講習会を開催している。「従来は、コースの作り方から課題の掲示の仕方といった初心者向けの内容を扱っていましたが、2023年9月には情報システム室とFD委員会が中上級者向けの『Moodle』講座を主催し、チエルに講師を依頼しました。フォーラムや小テストなど一歩踏み込んだ機能を紹介し、教員の皆さんから『参考になった』『ぜひ使ってみたい』との反響をいただきました」(上智大学 学術情報局 情報システム室 川上麻子氏)。

 現在は、課題の掲示など『Moodle』の中核的な機能を利用するケースが多いというが、バリエーションに富んだ授業を展開するためにさまざまな機能を知ってもらう機会をつくれば、さらなる活用につながるだろう。松田氏は、「実施した応用講座の内容を見直したり、回数を重ねたりすることで、よりインタラクティブで充実した授業になればうれしい」と語った。

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